1996年夏決勝 松山商VS熊本工の「奇跡のバックホーム」を証明した1枚~カメラマンが見た瞬間の記憶~

スポーツ報知
96年夏の甲子園決勝、同点の10回裏1死満塁で熊本工は三塁走者・星子(中央右)がタッチアップからサヨナラの本塁を狙ったが、松山商の右翼手・矢野のノーバウンド返球で間一髪タッチアウト(捕手・石丸)

 創刊150周年を迎えた報知新聞の特別企画「スポーツ報知150周年 瞬間の記憶」。今回は、1996年8月21日の全国高校野球選手権大会決勝で、松山商の27年ぶり5度目の優勝を引き寄せた「奇跡のバックホーム」です。高校野球ファンの中で語り継がれる名勝負を取材した豊田秀一カメラマン(59)が舞台裏を明かしました。

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 私の撮影ポジションは三塁ベースと本塁を結んだ延長線上の、いわゆる「三本間」と呼ばれるバックネット裏のスタンドに設けられたカメラマン席だった。

 延長10回裏1死満塁、右犠飛に十分な距離に見えた。私の前方の観客も興奮して一斉に立ち上がったため、本塁ベース付近が全く見えなくなってしまった。

 「やばい!」。思わずメインの400ミリレンズをつけて三脚に固定したカメラから指を離し、閉会式のために用意して足元に置いていた300ミリレンズ付きのサブカメラを手に持って立ち上がろうとした。次の瞬間、すぐ後ろの席に座っていた他社のカメラマンに頭を押さえつけられたが、こちらも必死。その手を振り払いながら中腰のまま無我夢中で撮影した。ひたすら熊本工の三塁走者にレンズを向けて追いかけた。

 際どいクロスプレーは、三塁走者の右足が先に本塁に到達したように見えたが、球審は「アウト!」のコール。超満員4万8000人の球場が騒然となるなか、私は邪魔をしてしまった後ろのカメラマンに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 フィルムカメラの時代なので現像して見るまでは分からない。私もセーフだったのでは?と思いながら会社に戻ったが、プリントされた写真を見て驚いた。捕手のミットがカウンターパンチのように走者の顔面に当たり、前に伸ばした右足はわずかのところでホームベースに届いていなかった。

 翌朝、優勝を逃した熊本工の宿舎を取材した地元・九州のカメラマンによると、「誤審」ムードで不満の声があったそうだ。テレビ放送で何度リプレーを見ても、セーフに見えたからだろう。

 しかし、本紙の写真を見せた途端に口をつぐんだという。球審の完璧なジャッジを証明することができた、私にとっても「奇跡」の1枚になった。

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