横浜FM マーケティング本部から見る創設30周年、「クラブフィロソフィー」の成り立ち…インタビュー後編

7月30日の鹿島戦の前に行われたOB戦で、関係者や家族との集合写真で笑顔を見せる横浜MのOB(カメラ・竜田 卓)
7月30日の鹿島戦の前に行われたOB戦で、関係者や家族との集合写真で笑顔を見せる横浜MのOB(カメラ・竜田 卓)

 1972年に発足した日産自動車サッカー部からさかのぼり、30年の歴史を築いてきた横浜FM。クラブ創設30周年を迎えた今シーズン、トップチームが3季ぶり優勝へ突き進む中、クラブを支える事業部も様々な取り組みを行っている。マーケティング&コミュニケーション部で働く永井紘さんへのインタビュー記事後編は、30周年にあたってクラブが発表した「クラブフィロソフィー」について。(取材=小口 瑞乃)

 ―シーズン開幕前の新体制発表会で、黒澤良二社長から「MISSION~私たちの使命・存在意義」「VISION~私たちの将来像」「VALUE~私たちの行動・判断基準」「CULTURE~私たちのクラブ文化」の4つを柱に据えた「クラブフィロソフィー」の共有があった。大々的に、時間をかけて発表するクラブは珍しい。

「それまでもクラブ理念は公式サイトに書かれていたのですが、正直自分も含めて働いている人間からすると『何かあったな』くらいの感覚でした。社内で30周年に何をするか話していた時に、『クラブの軸を改めて整理して発表すべき』だという声が1つではなく5つくらいの部署から出てきた。これは30周年を機にやるべきことの一つだと着手しました。社内でプロジェクトチームを作って全社員にアンケートを取り、今のクラブの良い点や悪い点、目指すべきことを聞きました。ただ極力、元のクラブ理念から逸脱するのではなく、わかりやすく整理して、必要であれば補足する方法をとりました。コーチの方々も含めた全員からそれぞれの思いや課題として感じているところ、F・マリノスらしさとして感じるところを抽出した上で1年ほどかけて丁寧に作りました。なぜ公開したかは、対外的に出すことによって言い訳ができなくなる事。意に反することはクラブとしてしにくくなる。自分たちの身を律する意味もありました。マリノスファミリーという言葉をファン・サポーターや選手がよく発信する中で、クラブフィロソフィーの中にその言葉は入れなかった。軽視しているわけではなく、あそこまで細かく開示できること自体がマリノスファミリーであることだと思っています。ファン・サポーターの皆さんにも共有して、共感していただいた上で、F・マリノスを応援してもらえれば一番嬉しいので、クラブとしてしっかり発表することを決めました」

―プロジェクトチームはどのくらいの人数で。

「8人くらいが中心になっていました。当時自分がプロジェクトリーダーをやらせてもらっていたので、誰が書いたかわかってしまうアンケートは自分だけが見られる状況にして、アンケートに対して聞きたいことを1対1で聞いて回る。整理したものを無記名の状態でメンバーと共有した形でした」

―アンケートで意見を出す社員が多いことからも一人一人の意識の高さを感じる。

「意見はたくさん出て、ただその書いてもらった言葉の背景がわからないことも多かったので、補足で話を聞きました。その時にクラブに対して熱い思いを持っている方が多いことはすごく感じられて、個人的には貴重な時間でした。普段はあまり話さない方のクラブの見方や、他のクラブからF・マリノスに来た方からF・マリノスの良さを教わるなど。自分はF・マリノス一筋なので気づけない視点を持つことができました」

―他のクラブから来た方の言葉で印象的だったことは。

「他のチームからF・マリノスのアカデミーコーチになった人のお話でした。F・マリノスは月1回オールスタッフミーティングと言って、スタッフ全員が集まって各部署が経営業績の発表や近況報告をする時間があります。個人的には正直形骸化しているというか、やることに疑問を持ってしまっていた時期もあったのですが、コーチの立場からすると、毎月クラブの業績を聞く機会はなかなかないと、素晴らしいと仰ってくださって。事業部はそういう情報に接しやすいので気づかなかったですが、自分の考えを改めないといけないと、会社全体で貴重な場であることを感じました」

―課題としてはどのような声が上がったのか。

「一番多かったのは一体感でした。よくクラブに一体感があると言っていただき、そういうふうに見えるかもしれないですが、コロナもあって、スクールコーチは本社に来ないで各拠点に直接行くことが多いですし、事業部側のスタッフは新しいコーチの名前を知らない状態で仕事をしている。逆も然りで、コーチもこちら側の新しいスタッフと絡みがない。制約はありますけど、それを差し引いても名前を知らないコーチやスタッフが増えているところが事実としてある。みんなで同じ方向を向くことが難しくなっている課題はあります」

―部署の垣根を越えて一体感を持つことがそもそもの前提としてある。フィロソフィーを軸に、クラブを育てていくために。

「判断基準もフィロソフィーの中に入っているので、迷った時には立ち返ることができる。今もトップチームやアカデミーもフィロソフィーを基に様々なことを考えています。しっかりと浸透するには時間がかかると思いますが、やって終わりにしてはいけない。プロジェクトメンバーもメンバーを変えて第2期に入っていて、狙いは持っています。一部の人で盛り上がってもしょうがないので、僕ともう一人を除いたメンバーを入れ替えてスタートしました」

―具体的な狙いとは。

「さっきも一体感が課題だと話したのですが、コロナが少し落ち着いた昨年末に久しぶりにリアルで集まる場を作って。クラブフィロソフィーをみんなの前で説明し、トップチームの振り返りなどをする全社ミーティングのようなことをしました。それなりにやって良かったなと。年に2回くらいできたらと考えて、今の第2期のメンバーで企画を進めているところです。企画するメンバーも毎年変えて、ゆくゆくはほとんどの社員が運営を経験することで、フィロソフィーがより自分自身のものになっていくのではないかと思います」

―メンバーの選考はどのように。

「第2期は、1回目の全社ミーティングのアンケートで『今度は自分も手伝います』と書いてくれたメンバーや、本社にいないグッズの倉庫に勤務している人や拠点が離れたスクールコーチです。クラブフィロソフィーを感じづらいのが事実なので、そういう方には意図的にメンバーに入ってもらって、少しでもクラブのやっていることが伝われば各拠点でそれが広がっていくのではないかと考えました。第2期にはチーム統括本部の方にも入っていただいてます」

―ファン・サポーターやこれからクラブを知る方にはどのようにフィロソフィーを感じてもらいたいか。

「僕らがやっている施策や姿勢から感じていただけるのが理想だと思っています。これがフィロソフィーだと毎年押し出していくかというとそうではなくて。もちろんタイミングを見て社長やいろんな立場の方が発信したり、接する機会は作っていきたいです」

―少し永井さんご自身のお話も。どのくらいの時期からスポーツクラブの事業部で働くことに対して興味をもっていたのか。

「中高生くらいだったかと思います。小さい頃はプロサッカー選手になりたかったですが、なれないと感じてどう生活していこうか考えた時に、ちょうどスポーツビジネスという言葉が出てきました。なので大学でもそのような勉強をして。中学3年生の時は体育の先生かな、と考えたくらいスポーツが好きで、性格的に好きなことを仕事にしたいタイプでした。スポーツに携われる仕事を考えていた時、コンビニで高級おにぎりが出た時期の新聞でなぜ高いおにぎりが売れるか、という記事を読んで、マーケティングの面白さに惹かれました。スポーツを使ってマーケティングする方法があることを知り、そこから勉強したい意欲が出てきた感じです」

―横浜FM一筋。働くやりがいは。

「生まれは東京ですが、小学生の時から横浜に住んでいて、一番近いクラブでした。地元で働けているので、小中学校の友達と食事をした時に自然とF・マリノスの話題が出てくるのはうれしい。サッカーに詳しくない友達でも話題にしてくれたり、試合を見にきてくれたりもして。地元で働いているからこそ感じられる思いはあります。あとは大きな都市でJリーグを引っ張っていけるような、大きなポテンシャルがあるクラブで仕事ができていることは刺激的です」

―トップチームはクラブ創設30周年の今季、タイトルへの思いもより一層強まっている。事業部としてはどんな挑戦を続けていきたいか。

「30年クラブが続くことは当たり前ではないし、周囲のサポートやご理解があってここまで続いてきたのは、この30周年を機に強く感じているところです。感謝の念を持ちつつ、一方で、クラブをよりよいクラブにしていく責任がある。少しでも前に進めるように必要なチャレンジをしたい。現状維持をするつもりは事業部側にもまったくありません。チームがあれだけチャレンジングなことをしているので、事業部も刺激を受けています。ファン・サポーターの皆さんもチームを見て応援してくださると思うので、クラブのどういう姿勢に共感してくださっているのかは理解しているつもり。我々もその気持ちを忘れずしっかり挑戦を続けて、Jリーグを引っ張っていけるクラブでありたいです」

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