【羽生結弦 あの瞬間】不撓不屈の「Origin」

スポーツ報知
2019年12月7日撮影(カメラ・矢口 亨)

◆フリー「Origin」 (18~20年シーズン)

 羽生結弦の「Origin」を回想した時、不撓(ふとう)不屈の言葉が浮かぶ。連覇した平昌五輪後の2シーズンで滑ったプログラム。けがもあった。苦しいことの方が多かっただろう。ただ、一度たりとも全力を出し切ることをやめなかった。

 2019年12月、トリノでのGPファイナル。ショートプログラム(SP)を、ネーサン・チェンに12.95点差の2位で終えた。フリーまでの中1日を、どう過ごすのか。戦意喪失…いや、羽生に限ってそれはない。SP翌日の公式練習は、想像のはるか上を行く内容で、私は半ばパニック状態だった。

 6日、午前11時35分。リンクイン前に、両手で体をたたき、気合を入れた。「バチンバチン」の音が会場中に響いた。前日の会見場とは別人のような鋭いまなざし。開始5分でジャンパーを脱いだ。普段は黒い長袖なのだが、いきなりの半袖だった。何かを予感させた。

 最初の驚きは「Origin」の曲かけでルッツ、ループ、サルコー、トウループの4種類5本の構成を試したことから始まった。最後を3回転半の連続ジャンプで締めた。「5本に増やすのか?」。記者席はざわついた。しかし「トリノの衝撃」には続きがあった。

 練習時間残り10分、それは始まった。試合の公式練習で初めて、4回転半ジャンプに挑んだ。何度も立ち上がる姿に圧倒された。迷いなく集中しきれている様子からは、前日の悲壮感は消えていた。走って出口へ向かった。「4回転アクセルは?」。羽生は「練習していただけです」と笑顔で返した。「5本入れる?」と聞いた。「そのつもりでやります」とうなずき、バスに乗り込んでいった。

 7日のフリー。冒頭の4回転ループで出来栄え(GOE)4.05点を引き出すと、17年ロシア杯以来2年ぶりに解禁したルッツでも3.94の加点。後半の3つの連続ジャンプが乱れはしたが、自身初となる5本の4回転を成功させた。魂の滑りだった。

 未知の領域の4分間を滑り終えると氷上に崩れ落ち、息を切らしうずくまった。5度目の優勝には届かなかったが、死力は尽くした。「勝負には負けているんですけど、自分の中での勝負にはある程度、勝てた。試合として一歩、強くなれたんじゃないかな」。06年トリノ五輪の会場「パラベラ」に確かな爪痕を残した。(高木 恵)

 ◆矢口が撮った

 トリノでのGPファイナル男子フリー。羽生にとって、渾身(こんしん)の「Origin」だった。フィニッシュポーズを保てず、崩れ落ちてリンクに両手をついた。全力を出し切った姿が羽生らしくてフォトジェニックだった。

 SPを終えて首位のネーサン・チェンに次ぐ2位。フリー前日の公式練習の終盤には4回転アクセルを繰り返した。本番で入れる予定のない超高難度ジャンプの練習は、自分を鼓舞するための理屈ではない挑戦だった。約2年ぶりに4回転ルッツも解禁。逆境にも心は折られなかった。

 「Origin」は敬愛するエフゲニー・プルシェンコ氏がかつて演じた「ニジンスキーに捧(ささ)ぐ」をモチーフにしている。でも、トリノの地で表現した「羽生らしく、全力でやり切ること」。この日に25歳の誕生日を迎えた青年が独自のプログラムに昇華させた「Origin」は、本当に美しかった。(写真部・矢口 亨)

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