▼WBOアジアパシフィック・ミドル級(72・5キロ以下)タイトルマッチ ○能嶋宏弥(TKO6回1分1秒)王者・野中悠樹●(24日、大阪・堺市産業振興センター)
挑戦者で日本ミドル級3位の能嶋宏弥=薬師寺=が、王者でWBO世界同級15位の国内男子最年長プロボクサー、44歳の野中悠樹=渥美=を6回TKO勝利で破る波乱があった。3度目の防衛に失敗し、悲願の世界挑戦実現が大きく遠のいた野中は引退の危機を迎え、2階級下のウエルター級を主戦場にしていた26歳の新王者・能嶋は“増量”に苦しんでいたことを明かした。
減量苦ならぬ“増量苦ボクサー”能嶋が金星を挙げた。3回にはラッシュで鼻血を出させ、5回の左ストレートでは左まぶたを切り裂いた。そして6回だ。カウンターの右ストレートで右顔面を捉えてダウンを奪うと、再度のラッシュで初タイトル戦を終わらせた。18歳上の王者に考える時間を与えなかった。「スピードもそうですし、ボクのスタイルは直線的に突進すること」と胸を張った。
本来の階級は66・6キロ以下のウエルター級。しかし3月の試合で1階級上のスーパーウエルター級(69・8キロ以下)契約ながら快勝したことで、さらに1階級上の初タイトル戦へのオファーが5月に届いた。「スタミナ勝負だと思って」とロードワークに精を出しすぎた結果、今月上旬の段階で体重が67・9キロまで落ちてしまったという。計量時にスーパーウエルター級の上限を超える69・9キロ以上ないと試合が成立しない。
すると能嶋は23日、計量直前にまさかの“かさ増し”を敢行した。「水を飲みましたね。1リットルくらい」と打ち明けた。それでもリミットの王者より1・7キロも少ない70・8キロ。当然の一発クリアだった。開始のゴングを聞く前は「リング中央からコーナーポストまで飛ばされるだろうな」と恐怖を感じていたというが杞憂に終わった。
名門・富山商では野球部に在籍したがベンチメンバーになれなかった。指定校推薦で入学した中京大で「消去法で」ボクシング部に入部して競技を始めた。ある日、名古屋市の鶴舞公園で、コワモテの男性に「この近くでトイレットペーパーのあるトイレはありますか?」と尋ねた。その相手が薬師寺保栄会長。「コンビニ行け!」と返されたが、何とも不思議な縁で薬師寺ジムに入門した。
22日に誕生日を迎えたばかりで最高のプレゼントを贈られた師匠は「11月20日にボクの興行(愛知・あいおいホール)でダイレクトリマッチを行う契約。野中選手が引退するなら(リマッチは)ない」と説明。野中が引退した場合も「違う相手とやって防衛するか、返上してウエルターに戻るか」と選択肢に悩んでいる様子。果たして「趣味はスイーツ。カフェ巡り。(名古屋市東区の日本茶喫茶)『茶縁』の抹茶プレートが好き」と屈託なく笑う能嶋は、次戦も“増量苦ボクサー”の道を歩むのだろうか。