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【羽生結弦 あの瞬間】ロックなステージに心のビートが走り出す

2020年12月25日撮影(カメラ・矢口 亨)
2020年12月25日撮影(カメラ・矢口 亨)

◆SP「レット・ミー・ エンターテイン・ユー」 (20~21年シーズン)

 羽生結弦がジャージーを脱いだ。それだけでもう、心のビートが走り出した。全身ロック。ゴールドのラメ入りの黒を基調としたジャケットと革パンスタイルに、指出しグラブの完全装備だ。

 コロナ下の2020年、羽生はGPシリーズを欠場した。新ショートプログラム(SP)「レット・ミー・エンターテイン・ユー」がベールを脱いだのは、シーズン初戦となった同年12月の全日本選手権だった。

 「こういう時代だからこそ、何か皆さんに楽しんでもらえるものにしたかった。このショートプログラムの僕にとっての一番の大きな意味は、皆さんに楽しんでもらえること」

 大会ごとのエキシビションを含め、羽生の選曲にはどんな時も意味がある。同シーズン、当初探していたピアノ曲から方向転換し、英国の人気歌手ロビー・ウィリアムスのロックをチョイスした。振り付けは、ほぼ羽生自身が務めた。

 初めて曲を流して演じたSP当日朝の公式練習。最後の難しい入りからのトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に「うおっ」と声を発してしまった。楽器の音が大きく鳴り響く瞬間に着氷。寸分の狂いもないほどの曲との融合を表現すると、そのまま左足を高く振り上げた。

 重圧がのしかかる本番でも、完璧に音をハメてみせた。これぞ、羽生結弦のスケート。終盤の「カモンカモンカモンカモン」のボーカルに乗って踏んだステップは、会場のボルテージを上げた。

 大会は収容人数の半数を入れ、有観客で開催された。声出し応援はNGだった。羽生がフィニッシュで両手を広げた瞬間、歓声が聞こえた気がした。

 「テレビやネットで声を出して見てくださったのは感じていた。楽しみながらやらせていただきました」

 大台突破の首位発進。ロックスターは320日ぶりのステージで、ファンを総立ちにさせた。(高木 恵)

 ◆矢口が撮った

 新型コロナウイルスの影響により2020―21年シーズンのGPシリーズを欠場した羽生にとって、その年の全日本選手権は約10か月ぶりの実戦リンクとなった。見ている人の沈んだ心に何かをともしたい。そんな願いが込められた新SPは、ロックナンバーの「レット・ミー・エンターテイン・ユー」。

 冒頭の30秒は羽生の姿をレンズで追いかけるのに必死だった。彼のスケーティングの伸びは私の想定を超えていた。速いだけじゃない。最後のトリプルアクセルの着氷まで、ギターの音に完全にハマっていた。王者は格段に進歩して戦いの場に戻ってきた。

 コロナ禍を境に、拠点をカナダから日本に移し、一人で練習に取り組んできた。どんな時でも人は前に進める―。プロスケーターとして新たなステージでの挑戦を決断した羽生を思う度、私はあの日の“レミエン”で彼が体現したメッセージを思い出す。(写真部・矢口 亨)

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