失礼を承知で言わせてもらえば、最初はただのビッグマウスだと思った。年明け1月に三重県内で行われた自主トレ公開。高橋宏は1学年上のロッテ・佐々木朗、ヤクルト・奥川の名前が出ると、迷いなく言い切った。
「2年目に自分もそれぐらいの成績を残すつもりでいますし、それだけの準備はしている。そこを見据えて戦っていきたい」
昨季は1軍登板がなく、2軍でも防御率7・01。どこから自信があふれてくるのか不思議だった。だが、2月のキャンプの紅白戦でいきなり150キロ超の速球を連発。成長を一番感じていたのが本人だったことに気づいた。
七夕登板だったDeNA戦(横浜)も7回3安打無失点、球団日本人最速の158キロをマークしながら白星には恵まれなかった。ただ前向きな姿勢を崩すことがない。発信するコメントには、物おじしない19歳の勢いと、逆にベテランのような思慮深さが入り混じっている。
「今日の感覚で158キロが出ていたのなら、まだ上がるというか、上げていかないといけない」
「中6日で当たり前のようにまわって、何勝もするのが先発投手。体力面、全ての面においてやるべきことは多い」
実は登板2日前だった5日にも「すごく良い調整ができているし、全ての面で成長している。変化球も自分の中で操れるようになってきたし、気持ちの面でもだいぶ楽に投げられている」と快投を予感させるような言葉を発していた。
交流戦期間中は登板がない遠征にも帯同し、外野のポール間をひたすら走り、ウェートで体をいじめ抜いた。「5日で強化して、5日で調整する」をテーマに過ごして来た中10日のサイクル。「遠足に来てんじゃねえよ」と先輩たちにからかわれても「下半身強化です!」と胸を張ってきた成果が白球に乗り移っている。
4月に打撃不振に陥っていた京田に「今日は打てます」「頑張りましょう!」と声をかけていたのが高橋宏だった。無邪気にも思えるが、京田本人も「嫌な感じはしない。ふざけてるなあ、ぐらい(笑)」と愛くるしい後輩に目を細めていた。
2ケタ借金を抱える中日に明るい材料は見えない。故障者の続出、チャンスであと一本が出ない打線…。現状を打破できるとすれば、高橋宏のような新時代の担い手ではないか。
来月9日には二十歳の誕生日を迎える。若武者にチームの責任を背負わせるのは酷だが、大きな期待を寄せれば寄せるほど、意気に感じそうなタイプだ。口癖は「ガンガン攻めていきます」。閉塞感を打ち破るエネルギーが背番号19に宿っている。
(プロ野球遊軍・表 洋介)