J1ジュビロ磐田の練習では、常に伊藤彰監督(49)の声がグラウンドにこだまする。チームで一番声が出ているのではないか…と記者が思ってしまうほど、練習中は戦術を入念に確認しながら、選手と密にコミュニケーションを図っている。
今年から同クラブを担当するサッカーの知識が乏しい私でも、選手へ的確に戦術を説明する「伊藤講座」は本当にわかりやすい。報道陣から「今日の練習の意図は?」などと質問が飛ぶと、丁寧に我々に説明してくれる。「なるほど」と思わず声が出てしまう。図々しいかもしれないけど、少し賢くなった気分になる。
練習にも工夫が施されている。実戦形式では、ゴールのすぐ後ろに同じようにゴールを置き、2つのゴールのどちらに決めても得点として加算される。その狙いは、守備側にとっては、どちらに攻めてくるか分からない状況で緊張感のディフェンス力を高める。攻撃側は、DFの裏を取る動きで奥のゴールへと攻め込み、隙があれば中央突破で手前のゴールを目指す。攻守ともにハードワークが課される練習メニューだ。
他にもグラウンドの約3分の1を使っての4対4のミニゲームで、時間を「7秒」と設定してのカウンター練習。速攻で相手を仕留める激しい強度が求められる。「戦術家」らしい多彩な練習は、見ていて全てが勉強になる。選手からは「イメージが持ちやすい戦術。ストレスもないし、他の選手も思っていると思う」と徐々に「伊藤イズム」が注入されている。
現在19試合を終えて4勝7分け8敗で16位。3季ぶりのJ1での舞台では、苦しい戦いを強いられているが、トライ&エラーを繰り返しながら確実に前へと進んでいる。イレブンからは「目指している方向は間違っていない」と声が飛ぶ。そんな伊藤ジュビロの成長段階をしっかりと取材し、今後も読者へと届けていきたい。(静岡支局・森 智宏)