舞台「千と千尋の神隠し」は「不可能を可能にした舞台」…公演成功のカギは最新技術ではなく“総力戦”

スポーツ報知
舞台「千と千尋の神隠し」大千秋楽で涙ぐむ橋本環奈

 今年2月から全国5都市を巡演した舞台「千と千尋の神隠し」が4日、愛知・御園座でついに大千秋楽を迎えた。アニメ作品だからこそ表現可能と思われた名作の舞台化に挑み、全102公演をやり遂げたキャスト、製作陣の旅路を本紙演劇担当記者が振り返る。

 「不可能を可能にした舞台」―。あえて本作を一言で総括するのならば、この言葉がぴったりだろう。

 舞台製作が発表されたのは、昨年2月25日。本紙を含め、翌日の各紙朝刊には「『千と千尋』初の舞台化」の見出しが踊った。言わずと知れた名作だけに、発表当初から高い注目を集め、ネット上には「舞台ってどうやってやるの」「カオナシはどう表現するんだ?」などと疑問符があふれた。

 百戦錬磨の巨匠にとっても「不可能」を覆す戦いの連続だったといえる。舞台の稽古が開始された昨年12月、本作演出を手掛けた世界的演出家・ジョン・ケアード氏と、演出補佐で妻の今井麻緒子氏をインタビューする機会をもらった。

 稽古場は、冒頭で千尋がトンネルを抜け異世界に迷い込み、両親が豚へと変貌する場面の真っ最中。

 舞台化への素直な疑問をぶつけると、ジョン氏は「千と千尋の世界を舞台にするのは簡単ではないし、今でも『不可能かも』と思うよ」と難易度の高さを語り、今井氏も深くうなずいた。だが、ジョン氏は「映画をコピーする気はない。問題を演劇的に解決していくんだ」と言葉を続けた。

 “演劇的に解決する”とは一体どういうことなのか―。その疑問は、東京・帝国劇場で迎えた初日公演の幕開けと共に、驚きと感動を持って解消されていった。

 一切の省略と妥協なく、忠実に再現された名場面の数々は、驚くべきことにその全てが人力。最新のプロジェクションマッピングやワイヤアクションはない。

 釜爺の最長6メートルに及ぶ腕も6人の演者で動かし、油屋の庭に咲く花にも、湯婆婆の部屋のつぼにも、全て役者が扮(ふん)する。役者の介添をする「黒子」は、歌舞伎などでは顔まで覆う黒装束が一般的だが、本作では青蛙など50体以上のパペットを動かす役者も顔をあえて出している。

 全キャスト・スタッフが汗をかき、総力戦で作品に命を吹き込む。舞台では、人の持つ力強さや燃えるような輝きがはじけ、物語やキャラクターの魅力がより立体的に引き出される。客席の熱気と、劇場の一体感は場面を追うごとに増していく。ジョン氏の言う“演劇的な解決”の意味が分かったような気がした。

 舞台の中心を担う、橋本環奈と上白石萌音による“2人の千尋”もそれぞれの持ち味をいかんなく発揮してみせた。

 開幕前の取材で、2人は「全くタイプの違う真逆の千尋になると思う」と語ったのが印象的だった。確かに、東京公演を観劇した際には、橋本は、はつらつと意志の強さを持つ千尋を、萌音は、心情の変化を繊細に表現し原作イメージに近い千尋を演じていた。

 コロナ禍の上演とあり、5月の福岡・博多座公演では橋本が、昨日(4日)の大千秋楽では萌音が、コロナ感染に見舞われ、それぞれが代演を務めるなど苦難もあった。はじめは“真逆の千尋”として各々の公演を担ったが、4日の大千秋楽で橋本が代演した千尋の中には、萌音がいた。

 カーテンコールでは「環奈ちゃんは最高の相棒」「萌音ちゃんに最後まで助けられた」―。公演を重ねる中で、かけがえのない存在となった互いへの感謝が語られる場面は、涙なしにはみられない。(これから配信を鑑賞する方はハンカチ、いやバスタオルのご準備を)。

 まさに不可能と思われた多くの試練を乗り越えた102公演。カーテンコールで、夏木マリが言った「人間は、何度感動して死ぬかが勝負だと思う」。この言葉の通り、一観客として、一記者としても人生においいて、忘れ得ない深い感動を本作にいただきました。長期公演の労をねぎらった上で、またいつかカンパニー織りなす神隠しに出会えることを願いたい。(記者コラム・奥津 友希乃)

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