認知症老女がタランティーノ調の語り… 永井みみ著「ミシンと金魚」

スポーツ報知
56歳で小説家デビューを果たした永井みみさん(カメラ・瀬戸 花音)

 昨年のすばる文学賞を受賞し、三島由紀夫賞にもノミネートされた永井みみさん(57)の「ミシンと金魚」(集英社、1540円)は、超高齢化社会における介護問題の現実を描いた一冊として注目を集めている。認知症の症状がある老人・カケイの一人語りで進行する物語は、永井さんの信じる「言葉の可能性」によって生まれたものだった。(高柳 哲人)

 最初のページを開いた時には、少々面食らうかもしれない。訪問介護やデイケアサービスを受ける独居老人の「あたし」こと安田カケイの独特な口調、改行の多さには、読みにくさを感じる読者もいるだろう。

 だが読み進めるうちに、そのリズムがどこか心地良くなっていく。そこには、趣味の落語から学んだものが大きかったという。

 「落語というのは背景描写をしなくても、聞く人は登場人物の会話だけで彼らが生きている風景を想像することができる。であれば、小説も話し言葉だけで(読者が)映像を思い浮かべられるのでは?と思いました。カケイさんのしゃべり方を特徴的にしたのも、彼女が持っている空気感を表したかったので。いわば『カケイ弁』を考えていったという形でしょうか」

 最近は、やたらと心情や背景を詳細に説明するテレビドラマや映画などが数多くみられる。その中で、会話の裏にあるものを読者に楽しんでもらおうと考える中で生まれたのが、本作の「書式」だった。

 現在、ケアマネジャーをしている永井さんにとって、今回の題材は身近どころか“ど真ん中”のテーマ。執筆の際には、資料を全く読まずに書き上げた。

 「まさに、カケイさんの物語は目の前で起こっている真実。彼女のようなお年寄りが弱者であることは間違いないですが、同時に感じているのは介護に関わる人の地位の低さ。周囲からは『頑張っていて偉いね』と言われることもありますが、その裏には『私にはできないな…』という意識もあると思います。そういう人にとっては現実を知りたくないということもあるかもしれません。ただ、現場ではさまざまな人生経験を重ねてきた人たちの重みのある言葉を聞くこともあります」

 一方で、本作には映画界の鬼才が意外な?影響を与えていた。

 「私は(クエンティン・)タランティーノ(監督)の映画が好きなんですが、彼の映画は主人公がやたらといっぱいしゃべる。また、あることについてしゃべったことが、次のシーンでは全く中身が変わっていたりする。カケイさんがのべつまくなしにしゃべっているのは、実はタランティーノを意識したところもありましたね(笑い)」

 ◆永井 みみ(ながい・みみ)1965年5月21日、神奈川県出身。57歳。劇団員、コピーライターなどを経て介護ヘルパーを6年務める。現在はケアマネジャーとして6年目。趣味は寄席に行くこと。

社会

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請