【番記者の視点】南野拓実 喜びと悔しさ、自信と怒り モナコ移籍へ心情を読み解く…英通信員・森昌利コラム

スポーツ報知
南野拓実(ロイター)

 ついに南野拓実の移籍が具体化した。6月22日、英メディアは一斉にASモナコが提示した1800万ユーロ(約26億1000万円)の移籍金額にリバプールが合意したと報道。後はメディカルテストを受けるだけ。問題がなければ日本代表MFのASモナコ移籍が確定することになる。

 移籍自体は驚かなかった。それは5月17日に行われたサウサンプトン戦直後の取材で、来季もリバプールでプレーを続けるのかと南野本人に尋ねた瞬間、「めっちゃ難しいです」という返答が返ってきた時に確信した。

 そして今、モナコ移籍が確実となり、あの時の、サウサンプトン戦直後の南野の発言をまたじっくりと読み返している。

 今年の1月にコロンビア代表FWルイス・ディアスが加入して以来、リーグ戦ではベンチ外という状況が当然となり、全く出番が与えられていなかったにも関わらず、この3日前に行われたチェルシーとのFA杯決勝でPK戦までもつれ込んで疲弊した主力の代わりにリーグ戦に先発した。

 しかもマンチェスター・Cを勝ち点1差で追いかけるためには絶対に負けられない試合だった。ところがサウサンプトンが先制した。ただでさえ難しいプレミアのアウェー戦でさらに困難を強いられた。その試合で南野は起死回生となる同点弾を奪取。最終的にリバプールが2-1で逆転勝利を収めた試合のヒーローとなった。

 その試合後の取材で南野が語った言葉には、喜び、悔しさ、自信、怒り、迷い、そしてある種の諦観と、様々な感情がその端々ににじみ出ていた。

 体調も良く、自信もあるのに試合に出られない。南野はこの試合のゴールが、そんな「怒りのモチベーション」で生まれたと話した。

 しかし、同時に試合に出られないことは「強いチームにいる宿命」と言った。監督は公平極まる男で「必要だと言われる。信頼されているという気持ちもある」と語り、それが試合に出られない辛い状況でも黙々と練習に励む”糧となった”と話した。

 一方、そんな強いチームの一員として、ハードトレーニングで知られるクロップ監督の下で2年半も鍛えられたから、プレミアのレベルでやる自信は当然ある。

 出場時間は限られたが、今季は公式戦で二桁の10ゴールを奪った。リーグ杯戦では4ゴール、そしてFA杯戦では3ゴールを奪い、両方の国内カップ戦でチームの得点王になった。ところがリーグ杯もFA杯も決勝では出番なし。決勝進出の原動力となりながら、優勝に貢献したという実感は「半分くらい」と語り、悔しさをにじませた。

 このリーグ戦まで2か月以上も先発がなかった。こんなことはプロのサッカー選手になって「初めて」だと言った。その中で「体もメンタルも調整するのはすごく難しかった」と語った。しかし見事な同点弾を奪って「意外とできるものだなと思いました」と続けて、はにかんだ微笑みを浮かべた。

 けれども、試合に出られないのに厳しいトレーニングを続け、ベストの体調を保つことがどれだけ難しいことだろうか。プロのスポーツ選手にとって、日々厳しい鍛錬と節制を重ね、ベストコンディションを保つということが最も重要な仕事であるわけだが、それも試合に出られる、自分が心から愛する競技で輝くという目的とご褒美があるからこそ耐えられる。ところがそのチャンスが全く巡ってこない。

 南野が来季もリバプールで続けるのが「めっちゃ難しい」と話した最大の理由がここにあるのは明白だ。

 日本代表MFも今年の1月に27歳となった。28歳から30歳前半に全盛期を迎えると言われるサッカー選手としては、まさに脂が乗りかかる年齢。ここで、いくらリバプールが世界最強を争うクラブだとはいえ、いくら練習を積んでも試合に出られないという状況は耐えられない。

 南野はこれまで、何度もリバプール選手である”魅力”について語っている。特にアンフィールドのサポーターとの一体感は格別だと言う。昨年11月20日のアーセナル戦で後半31分にサブ出場した南野が、そのわずか1分後の同32分、味方の電光石火のカウンターに乗り、ファーストタッチでアンフィールドの初ゴールを奪った。喜びが爆発した。くしゃくしゃの笑顔で雄叫びを上げた。そしてそのゴールの味は”最高”だと言った。

 試合に出られない悔しさと辛さ。そしてリバプールという、選手にとって強烈な磁力があるクラブの魅力。その狭間でどれだけ南野が揺れたことだろう。その葛藤は推測するに余りある。

 だから、ASモナコという決断だったのだろうか。

 移籍はサウサンプトン戦後の本人の発言からも簡単に推測できたが、これまでの英メディアでの報道では、ザウツブルグ時代の恩師マーシュ監督率いるリーズを始め、昨季にレンタル移籍し、ハーゼンヒュットル監督も”ぞっこん”という発言を繰り返していたサウサンプトン、そして今季昇格を決めたフラムのプレミアリーグ所属クラブが争奪戦を繰り広げるという様相だった。

 リバプールが設定した南野の移籍金が2000万ポンド(約34億円)ということもあり、資金が潤沢なプレミアのクラブの方が日本代表MFの獲得に”有利だ”という見方も強かった。

 しかし急転直下、ASモナコにあっさり決まった。もちろんその名前は移籍先の候補として登場していたが、英メディア上では決して本命とは言えない扱いだった。しかも移籍金は1800万ユーロ。リバプールの希望額に日本円で8億円ほど足りない。

 とすると、これは南野本人の希望が強く反映された移籍ではないか。

 プレミア内の移籍であれば、無論、リバプールで積んだリーグに対する知識や経験は大きいし、英語をはじめ、この2年半の英国生活で得た体験がそのまま活かせる。しかし南野はあえてフランスという新天地を選んだ。

 それはまず、今年がW杯イヤーであるということが大きいのかも知れない。フランスのリーグ・アンは確かに欧州5大リーグの一つで、ASモナコはその中の名門クラブ。しかしフィジカル面の要求が高いプレミアとの比較で消耗度は低く、怪我の心配も緩和される。

 そこで、8月の開幕からテクニカルなサッカーを展開するリーグで出場機会に恵まれれば、11月のW杯には絶好のコンディションで臨めるはずだ。

 もう一つの理由は、やはりアンフィールドの魅力に取りつかれた南野にとって、プレミア内の移籍となれば、マンチェスター・C以外はどこに行ってもやはり”都落ち”という印象がつきまとうこと。しかもこれまで噂のあったチームは欧州戦への出場権がない。

 それならば、3回戦からの出場とはいえ、昨季のリーグ・アン3位で欧州CLの出場権もあるASモナコへの転身の方が、気分を一新する移籍となり、様々な戦略のチームと高いレベルで戦う欧州戦出場の機会も高い。

 もう一つ付け加えるなら、地中海に面する豊かな陽光に溢れるモナコの天候は、イングランド西北部のリバプールのどんよりとした寒い港街と比べて別世界のような美しさがある。食事も段違いにうまい。

 結論としては、そんなモナコの晴れ晴れとした空気の中で、我らが日本代表MFがリバプール時代の鬱憤(うっぷん)を晴らし、その実力に相応しい活躍を示して、絶好調でカタールに乗り込むことを願い、今回の移籍を心から祝福したい。

 最後に一言付け加えたいのは、南野がリバプールのファンに本当に愛されたということである。特に今季の終盤、チーム内の序列が下がり、出場機会が激減したにも関わらず、ピッチに上がれば必ずと言ってゴールを奪った”タキ”の姿にサポーターは感動した。今季の最終戦となったアンフィールドでのウルバーハンプトン戦からの帰り道、リバプール市内へのバスで同乗したサポーター達に日本人記者だと告げると、彼らが口々に「タキに、せめて来季一杯までリバプールに残ってくれとお願いしてくれ」と言ってきた。

 確かに強力FW陣の中で一軍レギュラーの座をつかむことはできなかったが、サポーターは南野の実力を知り、試合に出ればピッチ上で常に全てを吐き出したそのリバプールに対する忠誠心に感銘した。そして南野が苦境に立たされていることは承知で、チームに留まることを心から望んでいたのである。

(英国通信員・森昌利)

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