◆第63回宝塚記念・G1(6月26日、阪神・芝2200メートル)
上半期のG1ラストとなる第63回宝塚記念(26日、阪神)に、馬主&生産者の立場でデアリングタクトとタイトルホルダー、メロディーレーンの3頭を送り出す岡田牧雄氏(70)がインタビューに応じた。20年の牝馬3冠デアリングタクトにとって今回が正念場の復帰2戦目。故障で長期休養を余儀なくされても現役続行にこだわった同馬所有のノルマンディーサラブレッドレーシングの決断には、岡田氏の卓越した見立てがあった。
―やはり注目はデアリングタクトの復帰2戦目です。香港クイーンエリザベス2世C3着の後、右前の繋靱(けいじん)帯炎を発症し、前走のヴィクトリアマイル(6着)で復帰するまで休養は1年1か月という長期でした。故障が判明した際、オーナーサイドとしてはどのように受け止められていたのでしょうか。
「それほど軽いものではなかったですけど箇所を見て、これなら復帰できるなと思っていました。きちっとスケジュール通りにやって、ヴィクトリアマイルで復帰するというのは1年前から決めていたローテーションでした。みんなで努力をしてこういう復帰までの過程を踏めたというのは誇っていいと思います」
―そしてヴィクトリアマイルは勝ち馬ソダシから0秒5差。スタッフの復帰への努力が実を結んだとも言えますね。
「復帰戦としては大満足のレースでしたよね。今回は叩いていい状態が戻ってきているという連絡も杉山晴調教師から受けていますし、うちのスタッフからも脚元に関しては何も問題ないというのを聞いているので思い切った競馬をして、本来の走りをしてくれるのではないかと期待しています」
―生産者の立場で送り出すのはタイトルホルダー。メロディーレーンは生産者だけではなく馬主名義も岡田氏。タイトルホルダーは堂々のファン投票1位選出です。
「生まれた時は小さかったし、自信があったわけではないんですよね。ただ、(2歳上の姉)メロディーレーンも2歳になったら良くなってきましたし、山田オーナーに気に入っていただいてセレクトセールで落札していただきました。牧場の坂路は800メートルなんですが普通の馬が2本やるところを3本やっても(タイトルホルダーは)ケロッとしていたんですよ。心肺機能に関しては桁が違うなと。この頃からスタッフと一緒に『この馬は菊花賞取る』と言っていたんです」
―凱旋門賞(10月2日、パリロンシャン競馬場・芝2400メートル)にも登録があります。
「この馬は体なんか見ても奥行きがある馬なので完成するのは5、6歳だと思っています。ただ、種牡馬としての価値を上げるという点でもここを勝ってさらに評価を上げてほしいですね」
―自身が関わってきた3頭がドリームレースにそろって出走です。
「メロディーレーンもファンが多い馬で、G1馬たちよりも問い合わせが多い時もあります。出来すぎですし、すごいな~と思います。誇らしいですよね。タイトルホルダーに関しては、まだ走れるという状況であれば長く競走馬として走ってほしいです。競走馬というのは競馬を走っているときが一番幸せだと思うのでね。デアリングもそうですが、1年間休養があったというところもありますし、6歳3月で引退させるというクラブの規定はありますが、会員様やファンが喜んでくれるのであれば、アクシデントがない限り6、7歳まで使ってもいいかなと思っています」
◆松山で最終追いへ
○…デアリングタクトは21日朝、滋賀・栗東トレーニングセンターの坂路で軽めの調整を行った。22日の最終追い切りは、実戦でもコンビを組む松山の騎乗で行う。「前走も休み明けだけど、状態はよかった。引き続きいい状態だと思います。(2200メートルの)距離は問題ない」と杉山晴調教師は復活Vを期待した。
◆取材後記…繁殖入りの声上がる中で曲げなかった意思
「とにかくファンが喜ぶこと、望むことをするのがホースマンの使命だと思っています」。岡田氏の言葉が心に響いた。
2020年の牝馬3冠デアリングタクトが参戦した同年ジャパンC。ファンならば当然見たい18年牝馬3冠アーモンドアイ、20年3冠馬コントレイルとの3強対決で、1着アーモンドアイ、2着コントレイルの後じんを拝する3着に敗れたものの、そんな夢のカードが実現したのは「楽しんでほしい」という思いが常に視線の先にあるからだ。
脚元に不安が生じた際、繁殖入りさせて子供を産んだ方がいいという声も上がったという。しかし岡田氏は「競走馬として生まれたのであれば、能力が発揮できる状態であれば使ってあげたい」と現役続行の意思を曲げなかった。ヴィクトリアマイルの馬場入りの際、ひときわ大きな拍手で迎えられたのは感動的なシーンだった。デアリングタクトが再び競馬場に戻ってこられたのは、ファン第一という岡田氏の強い信念があったからに他ならない。(石行 佑介)
◆岡田 牧雄(おかだ・まきお)1952年5月14日生まれ。70歳。北海道静内町(現新ひだか町静内)出身。父・蔚男(しげお)さんから牧場を引き継ぎ、のちに岡田スタッドに改名。2007年に有馬記念を勝ったマツリダゴッホ、10、11年の東京大賞典を含むG16勝を挙げたスマートファルコンなどを生産した。兄は“マイネル軍団”の元総帥で、昨年亡くなった繁幸さん。