ポール・マッカートニー80歳の誕生日に思う  ムハマド・アリさんは『Yesterday』…記者コラム

スポーツ報知
猪木・アリ戦。アントニオ猪木(下)が世界ヘビー級王者だったアリと異種格闘技戦で対決。試合は3分15回戦を戦い抜いて引き分けに終わった(東京・日本武道館、1976年6月26日撮影)

 元ザ・ビートルズのポール・マッカートニーが、18日で満80歳になった。創作意欲はいまだ衰えず、新型コロナウイルス感染拡大中にも新曲を発表したり、今年4月28日からは北米ツアーを実施。1回のライブで、ビートルズの大ヒット曲「Can’t Buy Me Love」など40曲近くも演奏。しかも、ほぼ原曲キーどおりというから驚かされる。亡きジョン・レノンの動画に合わせて、対位法を駆使して一緒に歌う「I’ve Got A Feeling」などは涙ものの企画だ。

 ただ、さみしいのは、ビートルズの代表曲で、ポールも大事にしてきた「Yesterday」をライブのセットリストから外して久しいこと。2018年10月31日の東京ドーム公演を最後に歌われていない。原曲キーで歌うのがつらくなったとか様々なうわさも飛び交うが、真相はわかっていない。記者も当時の東京ドームでポールの「Yesterday」は聴いたが、決して声がかすれて出なかったなどということはなかった。ビートルズは1974年からずっと聴き続けて、現在でも毎日耳にするが、ポールのライブから名曲が消えて、せつないような、恋しいような…。

 ところで、ポールと同じ1942年生まれには多くの著名人がいるが、記者の担当種目で言えば、何と言っても元ヘビー級王者の故ムハマド・アリさんだろう。数々の名勝負を繰り広げ、1974年10月にザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)でジョージ・フォアマン(米国)に逆転KO勝ちしたファイトは「キンシャサの奇跡」と伝説の一戦として伝えられる。

 忘れてはいけないのが、アントニオ猪木との異種格闘技戦。76年6月、日本武道館で行われた3分×15ラウンド。結果は引き分けで、当時は猪木が背中をマットにつけて闘うスタイルが酷評されたが、現在では、レスラーがボクサーと闘う最も優れた戦い方とも評価されている。猪木さんに当時のことをうかがったことがあったが、試合翌日、あまりの酷評に少し気落ちもしていたという。「1人で事務所に行くためにタクシーに乗ろうと道に出た。車が目の前を通りすぎて行ったんだけど、しばらくしたら戻ってきて『昨日はお疲れさまでした』って声を掛けてくれたんだ。たった、その一声で、自分の中にあったモヤモヤっとしたものがなくなって…。ああ、そういう見方もしてくれるひともいるのか、評価してくれたんだと思った。何しろ、新聞の見出しが(ひどかったから)ね」と笑いながらもうれしそうに振り返ったのが印象的だった。

 「アリのパンチは速くて見えなかった」という。それに当たった箇所が「こぶになっていた」そうだ。「そんなにダメージなかったけど、こぶになるということは相当堅いパンチだったんだろうね」。戦いのあと、2人は親しくなった。アリさんの結婚式に招待された時のことだ。「ビバリーヒルズの新居に招かれて。で、俺が部屋に入ったら、アリがどこかに隠れていたんだよね。後ろから裸締めにしてきて、(76年の試合について)『あぁ、あれでよかったな、お互い。俺も怖かったんだ』と言ったんだ。プライドが高い男だから、ふだんはそんなことは言わないんだけどね。そんな『枠』を外れた戦いだったからね」。アリさんが亡くなった後にしみじみと語った優しい笑顔が印象的だった。

 記者もアリさんとは思い出がある。1988年、マイク・タイソン(米国)の試合にメディアの仕事で来日した時、門前払いを覚悟して無謀にもホテルの部屋を“直撃”したら、突き放されるどころか、笑顔で部屋の中に入れてくれたのだ。こちらのカタコトの英語を何とか理解してくれて、分かりやすい英語で答えてくれた後、突然、立ち上がって、両手を前に出した。右手の指が左手に移動する、という“マジック”を披露してくれたのだ。今考えるとマジックと言うにはほど遠いものだったが、手際の良さは見事だった。さらにショールを取り出して、体の前でヒラヒラさせ、体が宙に浮いたように見せるマジックも。確かに一瞬、浮いたように見えたので、すごいと拍手したら、笑顔でアンコールしてくれた。その後、パーティーに出席したアリさんは、その席上でもマジックを披露。途中、記者と目線が合うとニヤリと笑って返してくれた。その時の笑顔は34年たった今も忘れない。あの時の笑顔をもう一度見たい。

 「Yesterday」は取り戻せない『昨日』をうたい、弦楽四重奏が哀愁感をさらに高める。「なぜ、彼女は行ってしまったのか」…。『she』を『Yesterday』という曲そのもに置き換えてみると、ライブでポールが歌わなくなったことのさみしさが募ってくる。そして、アリさんは記者にとって『Yesterday』だった。「Now I long for yesterday(昨日が恋しくてたまらない)」―。

(記者コラム・谷口隆俊)

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