「『記録の神様』山内以九士と野球の青春」を読む 宇佐美徹也、千葉功の記録の語り部を育てた男の生涯

「記録の神様」山内以九士と野球の青春(道和書院)
「記録の神様」山内以九士と野球の青春(道和書院)

 元パ・リーグ記録部長の山内以九士さんの事は、報知新聞記録部の上司でもあった宇佐美徹也さんから生前、断片的に聞かされていた。

 しかし、山内さんのお孫さんの室靖治さんが今回上梓した「『記録の神様』山内以九士と野球の青春」(6月25日発売予定、道和書院・2000円+税)の中に書かれた数々の功績は、1985年に特別表彰での野球殿堂入りに相応しいことが改めてうかがえた。

 私事で恐縮だが、報知新聞入社2年間の主な仕事は打撃30傑作成だった。現在のように通信社が配信するのではなく、自社で作っていた時代。試合前に当日の各球団の規定打席を用意、その前後の打席数の選手の集計カードをピックアップしておき試合終了に備えた。

 各球場に派遣している学生アルバイトから送られてくるテーブル(投打の成績)の数字を書き写して、そこで使うのが本の表紙になっているベースボール・レディ・レコナー(通称レコナー)。入社すぐに宇佐美から手渡されたポケット版の一冊だ。これで打率を出して順に並べて用紙に書き込むのがシーズン中の仕事だった。しかし、このレコナーが山内さんらが活字を一つずつ拾って作ったということを知るのは数年後だった。

 入社して30年以上お世話になったレコナーは今でも大事に持っている.私の仕事の戦友でもあり、家人には私の棺に入れて欲しいとお願いしている。

 1955年、日米野球のためヤンキースとともに来日したメジャー関係者は、パソコンも計算機もない時代でこのレコナーに驚き、数十冊購入。後に追加注文もあったという。誰にもマネの出来ないレコナーという力作以外にも数々の功績がある。

 野球の記録に魅せられた山内さんは、松江の豪商「山内佐助商店」の七代目佐助という立場にありながら、プロ野球公式記録員となり、2リーグ分立の1950年からはパ・リーグ記録部のリーダーとして、球界では「記録のパ・リーグ」という異名を取った組織に仕立て上げた。

 毎年記録年鑑を作って、次々と新機軸を発表。例えば、送りバントの成功率、盗塁阻止成績もセ・リーグに先駆けて掲載。また、投手から見た併殺打数や本塁打だけでなく打たれた二塁打、三塁打という項目も1960年代初期の年鑑に掲載、現在のオフィシャル・ベースボールガイドをしのぐ内容だった。

 晩年は未整理だったプロ野球1リーグ時代のスコアカードの整備、清書という作業をやり遂げた。また、その後「記録の神様」として報知新聞を始め各メディアで活躍した宇佐美徹也さん、週刊ベースボールで2900回も連載した記録の手帳の千葉功さんという“記録の語り部”二人は山内さんの薫陶があったればこそだ。

 自らの好きな事に没頭し、そして後継者も作った山内さんの生涯の功績を改めて教えてくれる。球界関係者だけでなく、野球ファンにも是非読んで欲しい一冊だ。

蛭間 豊章
 (ひるま・とよあき)1954年3月8日、埼玉県生まれ。名門・大宮高野球部は1年で退部したが、野球への愛着が募り、73年報知新聞社入社。記録記者、MLB専門記者と野球一筋。野球知識検定3級。ウェブ報知内のブログ「ベースボール・インサイド」(https://weblog.hochi.co.jp/hiruma/)や野球コラムも執筆中。愛称は「ヒルマニア」。

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