3年ぶりに有観客で行われた春季全北海道高校野球大会は、札幌第一の4年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。5月上旬から始まった各地での地区予選、同大会の取材を経て、特に目を引いたのが道内の高校生投手の充実ぶり。積雪の影響で本格的な屋外練習は3月下旬から、というチームも多い中、寒さが残る春の段階で最速150キロ、140キロ台後半をマークする好投手が続々と現れている。札幌円山球場には連日、多くのスカウト陣が視察に訪れた。
今大会、特に注目を集めたのが左右の150キロ超投手だ。1人目は苫小牧中央の斉藤優汰(3年)。既にプロ全12球団が視察に訪れる188センチの本格派右腕は今冬、肉体改造に着手し食トレと筋トレで体重は10キロ増の91キロ、太ももは入学時から14センチ増の62センチと迫力を増した。カウント球としても使える大きなカーブ、縦に鋭く消えるスライダーを操るが、軸となるのは鍛え抜いた体から繰り出す剛球。地区予選初戦・5校連合戦でいきなりそれまでの最速を2キロ更新する150キロをマークすると、続く2回戦・鵡川戦で自己最速151キロを計測。全道1回戦・北海戦では9回11奪三振2失点で完投勝利を挙げた。
初視察した西武・渡辺久信GM(56)は「(全国の高校生の中でも)目を引くピッチャー。ボールの強さは上位でしょう。夏までにもうひとランクアップする可能性がある」と評価。延長13回の末にサヨナラ負けを喫した準決勝・札幌第一戦を視察した日本ハム・稲葉篤紀GM(49)も「体が大きくて、投げっぷりもいい。将来性を感じる。(今後も)もちろん。見ていきたい」とうなずく存在だ。
2人目は東海大札幌の150キロ左腕・門別啓人(3年)。182センチ、スリークオーター気味のフォームで打者の手元で伸びる直球とキレ味鋭いスライダーが軸の投手だ。今冬の練習中に自己最速150キロを計測し、全道準々決勝・知内戦では10球団のスカウトの前で9回2失点(自責点1)、14奪三振で完投。地区予選3回戦・札幌新陽戦では驚異の9回20奪三振もマークした。4月に体調不良を起こし2週間練習を自粛した影響で、冬場に必死に増やした体重は大会前に一時7キロ減の80キロにまで落ち込んだが「もう、食べて、食べて食べて。今できることは全てやってきた」と5キロ戻して大会に臨んだ。
今大会の最速は140キロ台前半、準決勝・北照戦では制球を乱し、敗れた。しかし、本調子でない中で見せた驚異の奪三振能力とポテンシャルの高さに、3人体制で視察した巨人・水野雄仁スカウト部長(56)は「(球速以上に直球は)スピードを感じる。スライダーにも強さを感じた。夏までにまだ伸びるね」と期待を込めて評価した。
他にも、クラークの148キロ右腕・辻田旭輝(あさひ)、知内の147キロ左腕・坂本拓己(ともに3年)ら「夏の主役」になりうる好投手がひしめいている。今春のセンバツで強打の九州国際大付(福岡)打線に11奪三振と好投し、センバツの道勢投手では史上初のリリーフでの1試合2ケタ奪三振を記録した辻田は、同大会後に左膝を疲労骨折。4月下旬に取材に訪れた際も、足をひきずりながら裏方として練習の手伝いをしていた。「春は厳しいかもしれないです」と悔しそうに話していたが、治療に専念し、5月26日の準々決勝でマウンドに戻ってきた。センバツ以来の実戦登板では、くしくもサヨナラ打を浴びたが「投げられて良かった。夏につながる」と前を向いた。ベンチではなくマウンドで味わった悔しさが、夏の“原動力”になるはずだ。
マウンド上では闘志むき出しの強気なエースたちだが、取材中は共通して誠実に朗らかに、爽やかに受け答えをしてくれる。負けた試合後も、その姿は変わらない。それでも春の結果に対する自己評価、夏への決意を聞くと「自分はこんなもんじゃない」と言わんばかりに目の奥に力がこもった。門別が「負けない、1点も取られない投手になりたい」と言えば、斉藤は「安定した投球ができるようになりたい。チームを勝たせるのがエースの仕事」と強い決意を口にした。
道内屈指の注目投手をひと目見ようと、春季大会には連日多くの観客が足を運んだ。今月25日から始まる地区予選を経て、7月14日から北大会(旭川スタルヒン)、同16日から南大会(札幌円山)が始まる。今年の北海道は間違いなく「投手」が熱い。気温、そして最後の夏に懸ける思いが選手のパフォーマンスを最大限まで引き上げるはず。どのような投手戦が繰り広げられるのか、夏の主役は誰なのか。目が離せない。(北海道支局・堀内 啓太)