動画配信の普及、超大量消費に供給者側も工夫が求められる 稲田豊史さん著「映画を早送りで観る人たち」

劇的に変化する視聴環境について語った稲田さん
劇的に変化する視聴環境について語った稲田さん

 映画、音楽などの作品が「超大量消費」される時代に突入した―。コラムニストの稲田豊史さん(47)は著書「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ コンテンツ消費の現在形」(光文社新書、990円)で動画サービスが普及した視聴方法などについて多角的に分析した。急激なインターネットサービスの普及は文化、娯楽の姿そのものを変えつつあると指摘する。(久保 阿礼)

 2時間映画がたった15分にカットされ、「おいしい」ところだけが編集され、長編ドラマは「ネタバレ」を含んだ「まとめサイト」に転用される。稲田さんは著作権で保護されているはずの数々の作品が跡形もなくなっていく姿に絶句した。

 同時に、あの名作が「どこかの誰か」に無残に切り取られ、ネット空間をさまよう現状に強い違和感も覚えた。周囲の映画監督、テレビ関係者らの答えも同様だった。「これから、どうやって作品を作っていくべきか答えが出ない」

 稲田さんはDVD業界誌の編集に携わり、1か月に数十本以上の映画を映画館やビデオやDVDで見てきた。独立後の評論活動では、登場人物の動きやセリフに目を凝らし、耳を澄まし、作者の意図を読み解いた。解説記事や評論は数え切れないほど執筆した。作品を生み出す苦しみを近くで知っていたからこそ、真摯(しんし)に向き合った。

 最近の「潮流」には複雑な思いを抱く。動画配信サービスなどの爆発的普及により、これまでの視聴環境は劇的に変化した。ネットフリックスなど海外のサービスを始め、国内でも様々なサービスが展開されている。その多くに実装されているのが、倍速視聴や10秒の巻き戻しや早送り。編集ソフトを使い、映画を編集し、ユーチューブなどに配信するケースもある。悪質な場合は摘発されるが、すでにそれができる環境は当たり前のようにある。

 芸術作品はいったん作者の手を離れれば、それがどのように咀嚼(そしゃく)されるのかまでは制御できない。ゆっくり時間をかけて「趣味」として見るのか、コストパフォーマンス(かけたお金などに対する満足度)やタイムパフォーマンス(かけた時間に対する満足度)を重視し、「消費」するのか。視聴方法に関する調査では、作品を「消費」する人々の割合が全世代で増加。「超短縮視聴」の流れは、映画に限らず、スポーツの動画でも顕著になっているという。

 定額制動画の配信が始まって約10年。稲田さんは供給者側も工夫が求められる時代がすでに到来したと指摘する。「受け手の感性に合わせて、同じ映画でもアクション中心に再編集した映画をもう1つ出すとか、カスタマイズしていく流れになるのではないか。たとえば、新聞なら1週間の要約版があってもいい。技術が高度化し、人々の意識が変化することはこれまでもいっぱいありました。受け手重視のこの流れは、止まらないのかもしれません」

 ◆稲田 豊史(いなだ・とよし)1974年9月13日、愛知県生まれ。47歳。横浜国大卒業後、映画配給会社「ギャガ・コミュニケーションズ」入社。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長などを歴任。2013年、独立。エンタメ文化や芸術、社会論など幅広いジャンルを執筆。主な著書に「『こち亀』社会論 超一級の文化史料を読み解く」(イースト・プレス)、「オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情」(サイゾー)。

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