なんで、こんなに売れていて、毎日、日本中を笑わせることができているのに突然、いなくなっちゃうんだよ。そんな怒りが思わずにじみ出たお笑い界トップの言葉―。私の耳には、はっきりとそう聞こえた。
タレントで映画監督のビートたけし(75)が15日放送のテレビ朝日系「ビートたけしのTVタックル」(日曜・正午)に出演。11日に急死したお笑いトリオ「ダチョウ俱楽部」の上島竜兵さん(享年61)への率直な思いを明かした。
「上島は40年以上前から(たけし)軍団といろいろ仕事をやって、熱闘風呂とかああいうのは全部、我々が作ったネタだけど、出川(哲朗)とかダチョウとか岡村(隆史)たちが来た時に(軍団に)『こいつらをたてて、絶対、サポートしろ』って言って、本当はこっちのネタだけど『全部やれ』って。あいつら、有名になった今もちゃんとお礼に来てくれるけれども…」とダチョウの3人との長年の付き合いを振り返った、たけし。
「軍団にも言ってあるんだけど、芸人というのは下らない商売だから、いくらひどい目に遭っても笑ってくたばるのを待つって。のたれ死にが芸人の理想なんだからって、いつも言ってきたのに、本当に悔しいっていうか。何か身につまされて。大変だったんだろうと思うけど、ちょっと悔しいです」とポツリ。最後には「『どうでもいいよ、人生なんか』と思って、俺なんかは芸人になったんだけど、ダメだよね。そういうことしちゃ」と、やや厳しく響く言葉も口にした。
上島さんが急死した11日に所属事務所の公式サイトで「ダチョウ倶楽部」の3人を描いた自身の絵画をアップした上で「上島、大変ショックです。40年近く前から一緒に仕事をしてきたのに、芸人は笑っていくのが理想であって、のたれ死ぬのが最高だと教えてきたのに、どんなことがあっても笑って死んで行かなきゃいけないのに、非常に悔しくて悲しい」と異例のコメントを発表した、たけし。
「本当に悔しい」、「ダメだよね、そういうことしちゃ」―。
たけしが口にした言葉には芸人の生き様への独特の思いがある。2年前、新型コロナウイルスによる肺炎のために志村けんさん(享年70)が急死した際も生番組で志村さんのことを「同じ空気を吸っていた戦友」と表現した上で言った。
「何もこれ(新型コロナ)で逝かなくたっていいじゃんってところがあるよね。逆に考えれば、けんちゃんはいいところで収まったなって感じ。幸せじゃんって。売れたままいなくなっていくんだからって思うけど。そんなこと言うと、ファンに怒られちゃうけどね」―。
その言葉の裏には、芸人だけでは食べていけず会社員になったものの83年、自宅アパートの火災で焼死してしまった浅草時代の師匠・深見千三郎さんの記憶や売れないまま芸人を諦めていった数多くの仲間たちへの思いもあっただろう。
思えば4年前、93年の「ソナチネ」から17年の「アウトレイジ 最終章」まで全10作品でコンビを組んできた俳優・大杉漣さん(享年66)が急死した際も同様のことを口にしていた。
生番組で大杉さんについて聞かれ、「すごい不謹慎だけれど、一番いい時に死んだんじゃないかなと思うんだよね。(売れなくなっての)芸人の末路は嫌だなと思うし、一番、輝いて忙しくていい時に漣さん、いい思い出でいたって感じがして。それを言っちゃうと怒られるんだけれど。自分のことを考えれば…。うらやましいって言っちゃえば失礼だけれど、良かったねって言っちゃうね」と、亡くなる日の午後まで出演ドラマ「バイプレイヤーズ」を撮影していた大杉さんの現役バリバリでの急死を、独特の表現で悼んでいた。
昭和、平成、令和の3つの時代をトップタレントとして駆け抜けてきた超大物の根底には確かに「売れたまま死ねることへの憧れ」がある。そんな、たけしでも40年以上に渡ってかわいがってきた上島さんの死には到底、納得がいかない―。そんな思いが「本当に悔しい」、「ダメだよ」という言葉となって、にじみ出たのだと、私は思う。
たけし始め、明石家さんま(66)、「ダウンタウン」松本人志(58)、「竜兵会」の有吉弘行(47)、土田晃之(49)、劇団ひとり(45)らお笑い界のスターたちがこぞって、その優し過ぎる人柄を口にし、突然過ぎる死に、悔しさをにじませた上島さんの訃報。
今はただ、“たけし流”にその現役バリバリでの死をうらやましいなと思おう―。そうとでも思わないと、上島さんのギャグの数々に長年、笑わせてもらい、「バカやってるなあ。でも、とっても楽しそうだし、幸せそうだなあ」と救われてきた一ファンである私自身の悲しみも止まらない。(記者コラム・中村 健吾)