ダチョウ倶楽部・上島竜兵さんの訃報に衝撃を受け、1年半ほど前に取材したリップクリームのPRイベントを思い出した。新型コロナイウイルスの第2波が落ち着きはじめた2020年10月、肥後克広、寺門ジモンと取材に応じた上島さんは今後の抱負を聞かれ、「現状維持」と謙虚に語っていたのが印象に残っている。
芸能人が登場する企業のPRイベントは、用意された宣伝文句を連呼するのが定番だが、この日のダチョウ倶楽部は違った。結成35年を超えたベテランが「聞いてないよ~」「ヤー!」「どうぞ、どうぞ」など持ちネタを惜しげもなく披露。スポンサーに配慮しながらも、ネタをからめた独自のトークで場を盛り上げた。
「ダチョウ倶楽部」というグループ名の由来も明かされた。1985年の結成当時、タモリ、(ビート)たけし、所(ジョージ)ら人気者にあやかり、イニシャル「T」の「トマトケチャップ」「トラクターズ」などが候補に挙がっていたという。倶楽部は「おニャン子クラブ」から。ある日、知り合いから「濁音が入っている方が縁起がいい」と指摘され、「ダチョウ倶楽部」に。気付いたら、イニシャルが「T」ではなく「D」になっていたというオチだ。
イベントの最後に司会者から今後の抱負を聞かれ「現状維持」と答えた上島さん。「もっと大きな目標はありませんか?」と聞かれても「現状維持」と謙虚な姿勢を崩さなかった。芸能界で売れっ子になるのは、ほんの一握りと言われるが、売れ続けることはもっと難しい。この数年はコロナの影響で「竜兵会」などリアルなコミュニケーション機会が減ったこともあり「現状維持」の難しさを痛感していたと思う。
ダチョウ倶楽部のお笑いは時がたっても色あせない伝統芸能だ。70代、80代になっても変わらず、お笑いを届けてほしかった。(芸能担当・有野 博幸)