女優の大串有希(24)が2006年に公開されたヒット映画を舞台化した「フラガール―dance for smile―」(14~23日、東京・新国立劇場)で飛躍のチャンスをつかもうとしている。映画では南海キャンディーズ・山崎静代(43)が演じた熊野小百合役。これまでの舞台出演で得た経験を基に、初主演の日向坂46・潮紗理菜(24)を支える覚悟を見せると同時に、自らも“爪痕”を残すべく奮闘中だ。(有野 博幸)
舞台「フラガール―」は2019年、21年に続く3度目の上演で、大串は2年連続2度目の出演。役柄は前回の子持ちのダンサー・初子から、今回はより物語の中で重要な役割を持つ小百合に替わった。それも、豊富な舞台経験を買っての周囲の期待の表れともいえる。
映画版で山崎が演じた小百合は、太めの体形をイジられる場面があり、細身の大串は「びっくりしました。まさか小百合役をやるとは…。でも、チャンスだと思って、頑張ります」。総合演出の河毛俊作氏、構成演出の岡村俊一氏らと話し合い、「ちょっと鈍くさい、のろまなキャラクターをプラスして、体形は衣装で大きく見えるように」工夫。「そういう相談をしながら、稽古をできることが楽しい」と、舞台ならではの魅力を語る。
小百合は「炭鉱事故で父が危篤」と知らされながら、毅然(きぜん)とステージに立つ場面が見せどころ。「稽古で何か物足りないなと思ったんです。その場面は私が雰囲気をつくらないといけないけど、周りのみんなの支えがあってこそ。舞台は一人ではできない」と思い「遠慮なく感情を出して、気持ちをぶつけ合っていこうぜ!」と鼓舞した。その言葉に出演者同士の距離が一気に縮まったという。
主演の潮を筆頭に、元℃―uteの矢島舞美(30)、元NMB48の太田夢莉(22)、元HKT48の兒玉遥(25)らアイドル経験者が大集合。「やっぱり皆さん、魅せる仕事をしているので、踊っている時の目線や体のラインの見せ方がうまい」と刺激を受けたが、自身も負けるつもりはない。劇場に訪れるアイドルファンには「『大串有希、ここにいるよ』というアピールが少しでもできればいいな。名前を覚えてもらいたい」と貪欲だ。
16歳の時にテレビ朝日系ドラマ「科捜研の女」で女優デビュー。20歳で大竹しのぶ(64)の舞台「にんじん」を見て衝撃を受けた。「大竹さんが14歳の少年を演じているのを見て、舞台の素晴らしさ、無限の可能性を知りました」。より一層、真剣に芝居に取り組むようになり「生の舞台はお客さんの反応が直接、分かるのが楽しい。意外な反応もあるし、ウケると心の中で『よしっ』てガッツポーズをしています」。
稽古では演じる役柄を徹底的に掘り下げ、舞台上では「気負わず、飾らず、自然体」が持ち味。「クールに見られて、やる気あるのか? と言われることもありますが、心はメラメラと燃えています」。19年に東京・池袋シアターグリーンで上演された「Farce(ファース)道化師」が転機になった。知的障害を抱えた少女という難役を迫真の演技で演じ、現在の所属事務所社長の目に留まった。その日のうちにあいさつを交わし、現在も二人三脚で活動している。
確かな演技力は数々の作品を手掛け、多くの俳優・女優を目にしてきた河毛氏、岡村氏が太鼓判を押す。世間的な認知度はこれからだが、だからこそ誰もが知る今作への出演を好機と捉える。「難しい役にも果敢に挑戦して、必要とされる女優になりたい。いつかNHKの大河ドラマや朝ドラにも出てみたい」と夢を語り、目を輝かせた。
◆大串 有希(おおぐし・ゆうき)1997年8月4日、大阪府生まれ。24歳。高校1年から芸能活動を始め、2014年にテレビ朝日系ドラマ「科捜研の女」で女優デビュー。15年に映画「夏ノ日、君ノ声」出演。19年にat THEATRE演劇祭でグランプリ受賞。今年3月には舞台「修羅雪姫―復活祭50th―修羅雪と八人の悪党」出演。趣味は山登り。特技は書道、バレーボール、韓国語。身長166センチ。