◆JERAセ・リーグ 中日1x―0阪神=延長10回=(6日・バンテリンドーム)
中日・大野雄大投手(33)が“幻の完全投球”を披露し、延長サヨナラ勝ちを呼び込んだ。10回2死までプロ野球史上最長となる打者29人に対してパーフェクト。阪神・佐藤輝の中越え打で、史上初の延長完全試合と、自身と球団史上初の完全試合の達成はならなかったものの、10回完封の離れ業で今季2勝目。チームの連敗を2で止めた。
勝利が決まると大野雄は両手に祝い水を持ち、サヨナラ打の石川昂へ無邪気に駆け寄って喜んだ。9回までパーフェクト。0―0のまま延長戦に突入し、10回2死から30人目の打者・佐藤輝に中越えへ二塁打を打たれ、偉業を逃した。それでも10回完封の左腕は「とにかく勝ちたかった。10回を投げ(石川)昂弥が打って、全てが報われた。僕の記録なんてどうでもいい。ほんまに勝って良かった。それだけ」と振り返った。
味方の援護なく9回を投げ終え、立浪監督から「もうええか?」。一度はうなずいたが、仲間でもありライバルでもある柳の顔が頭に浮かび、「行きます」と続投を志願した。最速147キロの直球に加え、代名詞のツーシーム、スライダーを低めに制球。19年9月に無安打無得点を達成している虎を相手に、1安打5奪三振と手玉に取った。
延長戦で完全試合を逃したのはプロ野球史上2度目。05年8月27日に西武・西口が10回無死、楽天の沖原に安打を許して以来だった。過去に延長戦で完全試合を達成した例はないが、大野雄は西口の27人を上回り、史上最長となる29人への完全投球。直近では4月にロッテ・佐々木朗が完全試合を達成していたが「僕は達成していないので、記録にも残らない。ただ僕の良さというか、延長10回いける投手もなかなかいない。そこは自分を一つほめてあげたい」と胸を張った。
今季から立浪監督が指揮を執り、開幕投手の大役を任された。2月の沖縄キャンプ中に外出制限が解けた時、指揮官は主将の大野雄を中心に中堅、ベテランを那覇市内のすし店へ招待。細かな気配りに左腕も当然奮い立ち「僕も今年34歳。やれてあと数年。正直この人のためなら肩肘が飛んでもいい。立浪監督という人はそういう人。そこまでの人が“たかが大野”を信用してくれている。絶対に優勝して監督を喜ばせたい」。その魂はボールに乗った。
指揮官は「よく踏ん張ってくれた。勝ちがついたことが何より」と称賛。球団史上初の快挙は逃したものの、記憶に残る120球だった。(長尾 隆広)
西武・西口文也2軍監督「(中日・大野雄が9回まで完全投球、10回に初安打を打たれたことについて)「僕と一緒ですね。自分の時も0対0で延長に突入しましたが、記録よりも点を与えないことに集中していました。とにかく勝ちたかったので、10回表に1本打たれた後の方がさらにギアが入った、と記憶しています。大野投手も同じ気持ちだったんじゃないですかね」
◆L西口の“完全未遂” 西武・西口文也は05年8月27日の楽天戦(インボイス)で9回を完全投球。しかし、味方打線も得点を奪えず、プロ野球史上初めて完全を継続したまま延長戦に入ったが、10回先頭の沖原に右前打を許した。西口はそれまで2度、「あと1人」で無安打無得点をフイにしていたが、延長戦で完全を逃したのは史上初だった。試合は西武がサヨナラ勝ちし、3年ぶりの完封でトップタイの16勝目を挙げた。