令和に入って、いわゆる「老後2000万円問題」が広く知られることとなり、一躍「老後貧乏」が“バズる”現象が起きている。映画「老後の資金がありません!」のヒットや、「老後貧乏」をテーマにした「還暦ユーチューバー」も複数出現。老後への不安が高まるなか、私達はどうすれば良いのか。摂南大経済学部の小塚匡文教授に相談した。
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―先生、令和になって「老後2000万円問題」が急にザワザワするようになった背景は何なのでしょう?
小塚教授「発端となったのは、金融庁が2019年6月に発表した報告書『高齢社会における資産形成・管理』(金融庁/金融審議会 市場ワーキング・グループ)です。ここで初めて2000万円という言葉が出たことがきっかけとなり、『老後2000万円問題』に火がついて、映画化などもされたのだと思います」
―どんな内容だったんですか?
小塚教授「報告書は現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きるという試算をし、もし95歳まで生きる場合『65歳の世帯は1300万円―2000万円の取り崩しが必要』と記しています。この他、老後のために必要と思われる残高までの不足分を示した表(世代別)も掲載されていて、これは調査対象者金融資産額が『必要と考える』額までいくら不足しているか、ということを表しています。ここで約1700万円―2400万円不足しているということが報告されています」
―急に老後2000万円足りないなんて言われても困ってしまう人も多いと思うのですが…。
小塚教授「老後貧乏問題は、もっと早く出てきてもおかしくなかったと思います。老後のお金が足りない予兆は昔からありました」
―えっ! それはいつからですか?
小塚教授「確定拠出型年金(DC)がスタートした2001年です。20年以上前に始まっています。リスクをとって年金を増やさないといけないという方向性がこの頃からあったということです」
―2014年1月には、若年層へ投資行動を促すNISA制度もスタート。「個々人がリスクを取ってでもお金を増やさないと老後が大変ですよ」ということを、DCやNISAという制度を設けることで国が示し始めていたということなんですね…。それで、投資をする人は増えたんですか?
小塚教授「いいえ。日本人の投資行動はここ30年、ほぼ変化が見られません。日本の家計が現預金を重視する一方で、アメリカではリスク資産が好まれ、その傾向は30年変わっていないことがわかります。日本銀行が公開している『資金循環の日米欧比較』のデータでも、米は30年前から債券・株式などリスクのある金融資産が約50%なのに比べ、日本は約15%(欧は約20%)。一方、日本は現金保有が50%超なのに比べ、米は20%以下(欧は約30%)。諸外国と比べ現金保有率が高い傾向に変化がありません」
―実際、いまの還暦世代は貧乏なんですか? 金融中央広報委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和2年)』の金融資産保有額のデータ(保有していない世帯を含む)によると、2人以上世帯で一世帯あたり平均値は約1436万円(20代~70代、回答者の約8割が40代以上)とありますが…。
小塚教授「中央値から見ると半分ぐらいの人は875万円以下という状況です。しかし、現在の60代~70代が95歳まで生きるとすると、取り崩す額が2000万円と試算されるので、半分以上の世帯で足りていないことになります」
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次回は、十分な貯金がないまま老後を迎えた人が今できる具体的な行動について小塚教授に聞く。
◆小塚 匡文(こづか・まさふみ) 摂南大学経済学部経済学科教授。同志社大学商学部卒業後、銀行勤務を経て神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。神戸大学博士(経済学)。神戸大学経済学研究科の講師、岡山商科大学経済学部准教授、流通科学大学経済学部教授などを経て現職。専門は日本の金融・マクロ経済の実証分析。地域振興がテーマのゼミでは、京都の町屋などでフィールドワークを行う。