藤沢和元調教師の常識への挑戦 「普通って何?」

スポーツ報知
調教師時代の藤沢氏。笑顔が印象的だ

 人は普段から「常識」という言葉にとらわれている。そのものに対しての理解が希薄にもかかわらず、「普通そうだから」の言葉で自身を納得させ、変化を受け入れなくなる。それは年齢を重ねれば、重ねるほど顕著になってくると思う。ただ、若い時、押しつけられた常識に、あらがい求めた「普通って何?」の疑問は何も解決してはいない。

 2月28日で定年引退を迎えた藤沢和雄元調教師(70)は、既成の概念に常に向き合ってきた人だ。

 馬なり調教、集団調教に代表されるように、それまであった競馬界の常識を次々と打ち破り、「藤沢和流」の調教を確立させ、G134勝を含め、通算1570勝の大記録を打ち立てた。ただ、藤沢和氏にそのことに話を向けると言うのは、「別に奇をてらったわけではないよ」の言葉。氏の中では、これまでではなく、その変化の先に生み出された新たなものが常識だった。

 引退前の特集取材。この「普通」という言葉を使うことを氏が嫌いなことを知ってはいたとはいえ、いくつかの取材の中で、失礼ながらあえて「普通」という言葉を使わさせてもらったが、答えは明確だった。

 「普通って何だ? 例えば、シンコウラブリイやグランアレグリアは日頃の普通キャンターから速い。レベルの高い馬はその普通がそもそも高い。未勝利馬が調教でオープン馬並の時計を出したからといって勝てるわけではないよね。オープン馬の普通が、未勝利馬には相当、きつい。普通がそれぞれ違うんだから、みんなが言う普通は当てはまらない。調教ひとつとってもそうなんだから、そこにとらわれちゃだめなんだ」。

 氏の取材はいつもハッとさせられる。日々、当たり前に受け入れてしまっていることも、「そうなのか?」と問うてくる。以前、米国産で芝経験のない種牡馬のタピットの産駒が、芝でデビューすることを、ある記者が、「芝を使うんですか?」と投げかけたことで、機嫌を損ねたことがあった。後日、その話題になると、「先入観はいかん。じゃあ、サンデーサイレンスはどうなんだ。サンデー産駒で今、芝はどうですか? って聞く人はいないだろ。笑われちゃうよね。馬なり調教だってそう。今、みんな馬なりで調教しているんだから」。

 変化を求めなくなったら停滞する。記者は不惑をとうに過ぎてアラフィフになり、普通を受け入れやすくなるには十分な年齢になったが、藤沢和氏が示し続けた「常識への挑戦」に触れたことは、自身を奮い立たせ、踏みとどまらせてくれている。変化を恐れず、「常識」、「普通」と自分なりに向き合っていこう。藤沢和氏の引退を受けてに思うがままにつづった。(中央競馬担当・松末守司)

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