伊藤沙恵新女流名人、最多9度目挑戦で初タイトル 涙腺崩壊…9秒沈黙「…うれしい」

スポーツ報知
初タイトルを獲得し、対局後に感極まって涙ぐむ伊藤沙恵新女流名人(カメラ・谷口 健二)

◆将棋「第48期岡田美術館杯女流名人戦」五番勝負第4局(24日、関西将棋会館)

 ついに悲願成就―。第4局が24日、大阪市福島区の関西将棋会館で行われ、後手の挑戦者・伊藤沙恵女流三段(28)が114手で里見香奈女流名人(29)=女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花=に勝ち、シリーズ3勝1敗で女流名人の初タイトルを奪取した。史上最多となる9度目のタイトル挑戦で夢に到達した伊藤新女流名人は局後、涙を流して声を震わせた。里見が続けた女流棋戦史上最多連覇は12で終止符が打たれた。

 将棋盤の前では泣かないと決めていた。決めてはいたけれど、伊藤は涙腺の決壊を止められなかった。タイトル獲得の思いを問われると、9秒の沈黙の後に「うれしい気持ちです…」とつぶやいて、涙を拭った。長い歳月、幾多の挑戦を重ねて到達した頂。新女流名人は「応援してくれる方が…すいません…応援してくれていたので、結果を残せてよかったと思います…」と、声を震わせた。

 栄光への一局も伊藤らしい将棋だった。里見が中飛車から対抗形に組み直した技巧的な序盤は互角。焦点が不明瞭な中盤で主導権を握る。終盤は端攻めから自陣に迫られたが、落ち着いた指し回しで優位を拡大。自陣への△5三角など頑強な受けで耐え忍び、史上最強の女流棋士を投了に追い込んだ。

 9度目のタイトル挑戦での獲得は、2005年に千葉涼子女流四段が女流王将を獲得した時の7度目を上回った。一般棋戦でも19年に木村一基九段が王位を獲得した際の7度目が最多。「9度目の正直」は将棋史上最多挑戦での戴冠となった。「まだ全然実感がないです。長かったし、苦しかった」

 つらい経験を強さに変えた。昨年8月、新型コロナウイルスに感染。心身ともに苦しい時期を過ごしたが、周囲から多くの激励を受けたことが転機になった。「病気をしたことで自分は将棋を指すことしかできないと知りました。向き合い方は変わりました」。9度目ではなく「最後」と思って臨んだ。シリーズの途中、西山朋佳白玲・女王(26)に直電して頼み込み、練習対局に出向いた。遠征から帰京した日も大荷物を抱えて道場に直行。棋士との実戦を積んだ。

 5歳で始めた頃から、将棋だけは誰にも負けたくなかった。10歳で出場した小学生名人戦では永瀬拓矢王座らを撃破して4強入り。表彰の壇上で「棋士を目指します!」と、笑顔で宣言した。

 奨励会では10歳から10年間も挑戦を続けたが、棋士にはなれず。女流棋士になって7年間、8度挑んでも届かなかったタイトルをついに手にした。「ようやく親孝行と師匠への恩返しができました…」。伊藤沙恵新女流名人は、最後まで涙声のまま感謝を告げた。(北野 新太)

 ◆伊藤 沙恵(いとう・さえ)1993年10月6日、東京都武蔵野市生まれ。28歳。屋敷伸之九段門下。5歳で将棋を始める。2004年の小学生名人戦では永瀬拓矢を破って佐々木勇気、菅井竜也に次ぐ3位に。同年、奨励会入会。1級まで昇級。14年に退会後、女流棋士に転向。居飛車党。趣味はディズニー関連。好きなものは「くまのプーさん」と「いきものがかり」。

 ■「最近目の色違う」 母・伊藤史津子さん「沙恵の『まだ見ぬ景色を見てみたい』という強い思いがかないますように、と切望していました。最近、目の色が違うと感じます。技術面もさることながらメンタル面が強くなりました。幼い頃から将棋一筋だったので、経験できていないこともたくさんあると思います。今後は将棋で強くなることを目指すと共に人間力もさらに高めてほしいですし、将来的には結婚もして、あたたかい家庭を築いてほしいと願っています」

 師匠・屋敷伸之九段「いい意味で自分を追い込んでいるような何かを感じていました。大変なことが多かったけど、無駄じゃなかった。続けていれば経験は生きるので。そして、結果が出れば、さらに修業を続けられる。里見さんと西山さんはまだ高い壁。迫る活躍をしてほしいです。戦い続ける中で今回は大きな節目。本当におめでとう」

 木村一基九段(一般公式戦で史上最多7度目の挑戦でタイトル獲得)「おめでとうございます。1局目で解説を務めましたが、やはり伊藤さんの将棋は力強くて独特ですよね。特徴を持つ棋士として、タイトルを取ってものびのびと自分らしい将棋を指してほしいです。さらに強くなる時期を迎えている気がします」

 西山朋佳白玲・女王「心からおめでとうございます、とお伝えしたいです。今まで取ったことがなかったことが不思議な方ですけど、今回は懸ける思いが違う、と思っていたので、報われてほしい思いはありました。今後も対局していく相手ですけど、今日の瞬間だけは手放しで喜びたいし、祝福したいです。おめでとうございます!」

 加藤桃子清麗「沙恵ちゃん、おめでとう! 小学生名人戦でベスト4になった伊藤さんは私にとってはいつまでも『憧れの沙恵ちゃん』。奨励会に女の子が2人しかいない頃、よく一緒に泣きました。で、カラオケに一緒に行ったりして。沙恵ちゃんは絶対に90点を下回らないくらい歌がうまいんですよ~」

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