高梨沙羅らスーツ問題 失格は選手の4年を無にする究極の罰 明快な裁定を…北京五輪担当・細野記者が見た

スキージャンプ混合団体で涙を流した高梨沙羅(ロイター)
スキージャンプ混合団体で涙を流した高梨沙羅(ロイター)

 新型コロナ下で行われ、外部との接触を完全に遮断した「バブル」内で開催された北京五輪は20日に閉幕した。大会を取材したスポーツ報知の記者が、冬の祭典に挑んだ選手、関係者の思いをコラム「見た」で届ける。第3回は「沙羅スーツ失格 ルール上に見つかった2つの問題点とは」。

 北京五輪新種目のスキージャンプ混合団体は、日本女子のエース高梨沙羅(25)=クラレ=ら4か国5選手がスーツの規定違反で失格した。沙羅は両太ももが規定より2センチ太かったとされ、1回目の得点が無効。チームは4位だった。肩を震わせ、涙に暮れた。日本代表の鷲沢徹コーチは「(ルールのギリギリを)攻めた結果。本人のせいでは全くない」とかばったが、沙羅は自身のインスタグラムで「皆の人生を変えてしまった」と謝罪するまで追い込まれた。

 メダル候補の日本、ドイツ、ノルウェー、オーストリアが失格者を出し、下馬評の低いROCが銀、カナダが銅。もはや実力を反映した競技の体を成さなかった。第一の問題は「不透明性」にあると感じる。5人はW杯と同様の飛躍後抜き打ち検査で失格した。だが、公表されるのは失格者だけ。全体の検査件数はいくつだったか。失格者がいないチームは、何人が検査を受けたか。ここを公にしないままでは「強豪国を狙い撃ちした」との疑念は晴れない。

 検査手法にも、透明さは欠けた。ノルウェーのストレムは「奇妙だった」と証言。腕の位置などが普段と異なったといい、日本代表の斉藤智治監督は、沙羅も検査方法の違いを指摘したと述べた。一方、国際スキー連盟(FIS)の運営責任者は「違う測り方はしていない、としか聞いていない」と食い違う。FISは改善案で3Dスキャンなど、測定者による“揺らぎ”が出ない方策も検討しているという。公平な手法確立は当然。検査の経緯を記録しておくのも必要だろう。斉藤監督は「検査をフェアにしないと。こんなことで選手をつぶしてはいけない」と強調した。

 第二に、規則が試合自体を崩壊させたことも重く受け止めないといけない。罰を与えるためのルールになっていないか。スーツの規則は、競技の公平性を担保するもの。失格者を出すことが目的ではないはずだ。競技前に検査し、違反があれば改善して飛ぶ形は、本当に検討の余地はないのか。ジャンプ関係者は「失格者がこんなに出ないように、やり方を考え直さないといけないのでは」と指摘した。

 失格は、選手の4年を無にする究極の罰。裁定は明快、厳粛であるべきだ。例えば陸上。一発失格のフライング判定は、機械で行う。選手が両足を置くスターティングブロックにセンサーがあり、重みや体重移動を検知。フライングと定義される号砲から0・1秒未満の反応がないか、確認している。世界大会ではフライングした選手の反応時間は場内に表示され、記録も残る。「事実」が明確に提示され、そこに曖昧さはない。

 自然の中で行うジャンプ。元々は飛距離と飛型点だけで競い、風の運など「曖昧」な領域はあった。ただ、公平性を高めるため、FISは09年に風の有利不利を加味する「ウインドファクター」を導入した経緯がある。スーツ問題も、必ず改善できる。沙羅は五輪閉幕に際し「現状をかんがみて前進していきたい」と決意を込めた。今は、次の一歩を見守りたい。そして沙羅が心を痛め、自らを責めたあの夜の涙を、無駄にしていいはずがない。(細野 友司)

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