新型コロナ下で行われ、外部との接触を完全に遮断した「バブル」内で開催された北京五輪は20日に閉幕した。大会を取材したスポーツ報知の記者が、冬の祭典に挑んだ選手、関係者の思いをコラム「見た」で届ける。第2回は「スピードスケート 高木姉妹の独特な関係性」。
今大会はきょうだいアスリートの活躍が光った。その中でも高木姉妹の関係性は少し独特かもしれない。2人は姉妹であり、ライバルであり、仲間でもある。
東京五輪で柔道の阿部兄妹、レスリングの川井姉妹らの支え合う姿が感動を呼んだ。姉の菜那は当時「姉妹の良さ、姉妹のつらさは分かっているので感動して見ていた」と共感する一方で、「私たち姉妹と違うのは同じ種目で戦うところ」と語っていた。団体追い抜きでは仲間として「高木美帆という選手を信頼している」。個人種目では枠や成績を争う相手で「どっちかが落ちても自分は行きたいと思うのが普通」。1人の選手として認め合うからこその自然な考えだった。
それらの関係性が印象的に映った場面があった。ともに得意の1500メートル。姉は、大本命で臨み銀だった妹・美帆に「やっぱりこの種目で妹に金メダルを取ってほしかった」と思いやった。競い合う相手として、努力や懸ける思いを見てきたからこその言葉だと感じた。
団体追い抜きは最終盤で姉が転倒した。泣きじゃくる姉に「かける言葉がみつからなくて、そばに行くことしかできなかった」。妹はそっと寄り添い、背中をさすった。取材エリアでは仲間として「やってきたことに悔いはない」とかばった。妹が金メダルに輝いた1000メートルの朝には、こんなやり取りもあった。銀3つで最後の種目を迎えた状況だったが「美帆、これ銀メダル4つでも快挙らしいよ」。家族という距離感でなければかけられない言葉は、重圧を解きほぐしたはずだ。
姉は今季を集大成と決めている。平昌五輪とも違った空気感は、姉妹で戦う最後の五輪となることも影響していたかもしれない。高木家の獲得メダルは通算10個に達した。5年前から担当し、何度も何度も姉妹の関係について質問を受ける場面を見てきた。姉は「きょうだい愛があるわけじゃない」と語気を強めたことがあったが、普段は言葉に出さなくとも、そこには強い絆があった。(スピードスケート担当・林 直史)
◆きょうだい選手の北京五輪 五輪で過去最多、10組20人のきょうだい選手が出場した。高木姉妹のほか、スノーボードでは男子ハーフパイプで金メダルの兄・平野歩夢(23)=TOKIOインカラミ=と、9位の弟・海祝(19)=日大=。スキー・ジャンプでも個人ノーマルヒル金の小林陵侑(25)=土屋ホーム=は、団体5位などの兄・潤志郎(30)=雪印メグミルク=ときょうだい出場だった。