◆北京五輪 ▽フィギュアスケート(8日・首都体育館)
男子ショートプログラム(SP)で94年ぶりの3連覇がかかる羽生結弦(27)=ANA=は氷の穴にはまるアクシデントに見舞われ、4回転が1回転に。自己ベストより16・67点低い95・15点で8位スタートとなった。首位のネーサン・チェン(米国)とは18・82点差がついた。10日のフリー「天と地と」で、前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を決め、北京に伝説を刻む。
神経を研ぎ澄ませ、羽生が最初のジャンプを踏み切る直前だった。氷の穴に「ガコってはまった」。空中で回転がほどけた。基礎点9・70点の4回転サルコーが1回転になった。成功し、GOE(出来栄え点)で満点の4・85を引き出せば14・55点を獲得できたが、痛恨の0点。演技後に踏み切り位置まで戻り、穴をのぞきこむと「まじか…」「はまった」と声が漏れた。「完璧なフォームで、完璧なタイミングで行った。何か僕、悪いことをしたかな」。悲しそうに笑うしかなかった。
招待客が入った会場は凍り付いた。五輪の舞台での無情すぎるアクシデント。それでも羽生は最後まで最善を尽くした。「序奏とロンド・カプリチオーソ」を愛情を持って滑りきった。「全然気持ちを切らさずにできた。プログラムとして成り立っていたように自分のなかでは思っている」。直後の4回転―3回転の連続トウループはジャッジ9人中3人が5点満点をつけた。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も決め、ステップもスピンも全て最高難度のレベル4を獲得。1本のジャンプを失いながらも95・15点を出した。
6日に北京入りした。直前まで国内で調整することを選んだ。過去の2大会を思い返しながら、スケートに日々をささげてきた。初めて五輪に出場したソチ大会と、66年ぶりの連覇を達成した平昌大会。何度も逆境を超えてきた。「自分が五輪に出てきて、いいこともあれば、悪いこともあった。その中でも何とか1位をとって、ここまでこられた。今までの中でも一番濃密な練習がこなせてきた」。自分を信じ、奮い立たせて決戦の地に入った。
本番リンクはこの日の朝の公式練習で20分滑っただけだったが、氷の感触はつかめていた。「すごくいい集中状態で、何一つほころびもない状態だった」。不安なく、3度目の五輪の銀盤に立った。「だからこそ、ミスの原因を探すと整理がつかない。スケートの方でのミスは全くなかったので。なんか、氷に嫌われちゃったなって」
SP首位から逃げ切った過去2大会と異なり、初めて追う展開でフリーを迎える。「もう何も怖くない」と言い切った。前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を入れて勝負する。「演技に関してはすごく自信がある状態。あとはもう、神のみぞ知る」。前だけを見て戦う。
4回転半の基礎点は12・50点で、ルッツと1点しか違わない。本来なら、もっと価値があるはずのチャレンジ。ハイリスクローリターンな挑戦ともいえる。それでも羽生は挑む。「今日不運もあったけど、氷との相性もすごくいい。しっかり練習して決めきりたい」。幼い頃からの夢に導かれた4年間。羽生が夢をかなえる場所は、五輪の舞台がふさわしい。(高木 恵)