◆北京冬季五輪 ▽ジャンプ混合団体決勝(7日・張家口スキージャンプセンター)
新種目の混合団体(ヒルサイズ=HS106メートル)で、日本は高梨沙羅(25)=クラレ=、佐藤幸椰(26)=雪印メグミルク=、伊藤有希(27)、小林陵侑(25)=ともに土屋ホーム=で臨み、合計836・3点で4位だった。沙羅が1回目に103メートルの大ジャンプ後、スーツの規定違反で失格。沙羅は気丈に2回目は98・5メートルをマーク。のべ7人分の得点で、のべ8人が飛んだ3位カナダを8・3点差まで追い詰めた。涙ながらの一本を飛んだ沙羅の心の強さを、細野友司記者が「見た」。
ヘルメットの奥、ゲートに座る沙羅の瞳は光っていた。2回目は98・5メートル。着地を決め、顔を覆うと涙が止まらなかった。カメラに向かい、深々と3秒頭を下げた。ただ、自分を責めた。アンカーで最長不倒106メートルを飛び、結果的に表彰台まで約4メートル差まで迫った小林陵の飛躍を見届けると、感極まって崩れ落ちた。陵侑は「沙羅は2本目集中して、いいパフォーマンスをした。本当に強いな、って。五輪だから確かに目立つけど、いい収穫もある。悪い方向ではない、と僕は思います」と優しくかばった。
103メートルを飛んだ1回目終了後、無作為抽出されるスーツ検査の対象となった。両太もも回りが規定よりも2センチ大きかった。「自分のせいだ」。歩こうとしても、足が立たない。スタッフに肩を抱きかかえられながら、泣き崩れた。ドイツ女子のエースで、個人戦銀メダルのアルトハウスも失格したことで、日本は通過圏内ギリギリの8位で2回目進出。沙羅は、自分の意志で2回目を飛んだ。心と責任感の強い、ジャンパーだった。
日本代表の鷲沢徹コーチによると、失格になったスーツは4位に入った個人戦(5日)と同じものという。女子の場合、スーツは体より大きくて良いのは2~4センチと定められている。ゆとりがあるほど、揚力が得られるからだ。従って、微妙な体形変化に合わせて調整する必要がある。選手自身は、スタッフから調整が済んだスーツを渡されて着るだけ。鷲沢コーチは「各国、ギリギリ(の大きさ)を攻めないとメダルは取れない。僕たちの計測ミス」。沙羅含め、4か国5人の失格者が出た今戦。し烈なメダル争いの裏返しでもある。
五輪で初の団体戦。沙羅には、今までにない感情があった。「(ジャンプは)個人競技。今まで『身を呈して』とかはあまりイメージできなかったけど、仲間がいると違う」。失格でメダルを逃した。今は自分を責めるな、と言っても無理だろう。ただ、目を赤くしながら2回目に挑んだ沙羅は、鬼気迫っていた。本当に強かった。個人戦後にも「結果は受け入れている。私の出る幕は、もうないのかもしれない」と涙を浮かべた。そんなことはない。日本チームにも、世界のジャンプシーンにも、これからも高梨沙羅が必要に決まっている。(細野 友司)
○…ジャンプの新種目、混合団体は強豪国にスーツの規定違反による失格者が続出する波乱の展開となった。日本が1回目に1番手の高梨が失格となった後、オーストリアの1人目ダニエラ・イラシュコも失格。ドイツも3番手のカタリナ・アルトハウスが失格となった。2回目にはノルウェーに2人の違反者が出た。実に10チーム中4チームの女子5人が失格となる後味の悪い幕切れとなった。
◆ジャンプのスーツ規定 サイズはスーツを平らに置いた状態で、身長、股下、腕の長さ、首回り、足の長さなどが選手の体と一致するか細かく計測される。男子は1~3センチ、女子は2~4センチのゆとりのみ認められ、計測時の下着の形まで指定されるほど厳密。例えば体重が減ってゆとりが増えた場合は失格になる。他にも生地の厚さ、通気性、縫いしろの幅などが細かく決められている。