ヤクルトだけが使った「ホークアイ」どう生かして日本一につなげたのか…アナリストが明かしたデータ活用現場

ヤクルトのアナリスト・永田俊紘さん
ヤクルトのアナリスト・永田俊紘さん

 昨季日本一となったヤクルトだけがNPBで唯一導入していた、MLBで使われる機器がある。「ホークアイ」。複数台のカメラで、投球や打球、選手の動きなどをとらえている。スピード、ボールの回転数、回転軸、軌道、投手・打者のフォームなどをデータで取得し、解析している。導入のきっかけや活用の方法の一端を、ヤクルトのアナリスト・永田俊紘さんが先月行われたDELTA社主催「リーダーズ・オブ・ベースボール・オペレーションズ2022」で語った。

 きっかけは19年の夏頃だった。ヤクルト入団1年目の永田さんはメジャーではデータ解析のシステムが弾道測定器「トラックマン」から「ホークアイ」にシステムが変わるらしいという記事を目にした。日本ではまだ「トラックマン」がようやく本格的に普及しだしたところなのに、MLBでは次世代のシステムが入る―。米留学経験があり、もともと通訳として球界入りしていた永田さんは「MLBに見に行きましょう。彼らがどう考えているのか、いち早く聞きましょう」と上司を説得し、各球団を回った。幸いにも前所属の阪神では国際スカウトや戦略分析担当を務め米球団視察を行っていたこともあり、永田さんにはMLB球団へのつてがあった。メジャーの各球団は、日本からの訪問客を快く受け入れてくれた。

 そして「こんなに早く導入できるとは思わなかった」と振り返る通り、20年から4台のカメラを試験的に神宮球場に設置して利用を開始。21年からは台数を8台に増やし、より本格的に分析を始めた。「ホークアイ」を導入しているのは12球団でヤクルトだけ。データを活用する際、熱心なコーチ陣が積極的に加わってくれたことが、大きな転機になったと永田さんは振り返る。

 「投手がいい日も悪いも、伊藤(智仁)投手コーチと石井(弘寿)投手コーチが試合後すぐにデータを見に来てくれる。練習前も練習後も映像を見たり、一緒にデータをグラフ化したりしている。選手への伝え方が本当に上手で、データへのハードルを下げてくれた。熱心に投手を巻き込んでくれたというのがなければ、去年の投手の成績はなかった」

 20年は4.61でセ・リーグ最下位だったヤクルトの防御率は、昨年は両コーチの指導もありリーグ3位の3.48まで回復。昨季のヤクルト投手陣は与えた四球が最も少なく、奪った三振は最も多かった。

 コーチの熱意は選手にも伝わっていた。

 「(導入前の)19年には(分析室に)限られた投手しか来なかったが2年前から徐々に増え始めて、全ての投手が来てくれるようになった。データの価値を高めてくれたのは、2人の投手コーチのおかげだと思っています」と、投手陣が自身の投球の解析を見るのが当たり前になっている現状を説明。「彼ら(投手)の主観とテクノロジーを結びつけられたのは大きかった」と解説した。

 永田さんは伊藤コーチについて「球種の変化量をグラフ化したときに『ホップ方向にこれくらいです、スライド方向にこれくらいです』と伝えると、次の日のブルペンで(投手に)握りを修正させて、自分で(動画を)撮って送ってきてくれる。そして、いい時の球との数値と比較している。投手の理想のボール変化習得と向き合っていらっしゃる。試合後もそのフィードバックを聞きに来られるので『今日は理想にだいぶ近づいていました』といった会話をやっていたのが昨シーズンでした」と伊藤コーチの熱意を説明した。

 また石井コーチも「データに対する理解、フォームの変化への気づきが鋭く、熱心にデータのことを聞きに来られる」と、アナリストとしてのやりがいを口にした。

 連覇を目指す今シーズン。永田さんは「他の球団と比べて投資できる規模が全く違い『ヤクルトって大丈夫か』と思われることがあるかもしれない。でも(選手たちに)伝えているのは、施設面では劣っているかもしれないが、最低限必要なものはMLBの最新のものが入っているし、最先端の理論にもアンテナを張っている。選手に『ヤクルトに入って良かったな』と思ってもらえるようにしたい」と意気込んでいた。

 先月行われたDELTA社のオンラインセミナーには、球界への就職・転職を目指す人をはじめ約80人が受講し、入団の経緯や取り組みに耳を傾けた。同社によると近年は球界とは全く関係の無い業界からフロント入りやアナリストになる人も出ている。(デジタル編集部・田中孝憲=@CFgmb)

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