荻原健司氏、五輪の舞台は挑戦することの「不安」に立ち向かえ

スポーツ報知
世界の頂点を目指せ―。「ナンバー1ポーズ」で北京にエールを送った荻原健司市長(カメラ・山崎 賢人)

 いよいよ開幕した北京冬季五輪に特別な思いを寄せている政治家がいる。昨年10月の長野市長選で初当選した荻原健司市長(52)は1992年アルベールビル、94年リレハンメル両五輪ノルディック複合団体金メダリスト。かつて選手として出場した長野の街で首長を務めている男は、北京で戦うアスリートたちに「『不満』より『不安』を―」との金言を贈った。(北野 新太)

 今でも時々、荻原市長は五輪の夢を見る。表彰台の頂点に立ち、胸元に金色のメダルを掛けられた甘美なシーンではない。敗北の苦い記憶である。

 「長野五輪(98年)の時、個人4位でメダルを取れなかった時のことが出てくるんですよ。達成できなかった悔いとして、今でも。長野市で市長として仕事をする上での大きなエネルギーになっていることは間違いないです。形は変わってもベストを尽くしたいと。あの時、もし金メダルを取っていたら今とは違う自分になっていたと思う。市長をやっていなかったかも…というか、どこで何をしていたか分からないです。あの悔しさが今につながっています」

 ノルディック複合の王者は「キング・オブ・スキー」と称されるが、1990年代は荻原市長のニックネームでもあった。世界選手権で2度の個人金、W杯では19度の優勝と個人総合3連覇。「王様」として五輪でもV3を目指した男として、北京の地でフィギュアスケート男子シングル3連覇に挑む羽生結弦に熱視線を注いでいる。

 「ネーサン・チェン選手も有力視されていますけど、五輪は他の競技会とは別です。いざという時の戦い方、コンディションの持っていき方など羽生選手は他の選手にはないものを必ず持っている。(教え子でノルディック複合個人2大会連続銀の)渡部暁斗も同じですけど、五輪だからこそのパフォーマンスを発揮してほしいです」

 4年に1度の大舞台で、どのように戦うか。今もアスリートとしての視線を持つ。

 「例えば羽生選手なら、クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)という難しい技を持っていますよね。当然、転倒すれば点数が大幅に落ちるリスクがあるわけですから『不安』はあると思います。成功率を上げて確実な点数を取りにいく選択肢もある。当日までには、やるか、やらないかという判断に迫られるはずです。でも、やらないと『4回転半をやらない自分でいいのか。五輪という舞台で安全策でいいのか』という『不満』が生まれてくる。不安を選ぶか、不満を選ぶか、なんです」

 かつての自分は「不安」を選んだ。92年当時、日本国内では誰も導入していなかったV字ジャンプをアルベールビル五輪の直前から採用した。

 「不満の中にいる自分は嫌でした。日本では誰もやったことのなかったジャンプでしたけど、飛び込んでいくと決めました。人はスポーツに何を見たいか。自分にとってはチャレンジと戦いなんです。勝つか負けるかの瀬戸際で守りに入って『不満』を選んで負ける経験をたくさんしたことは教訓になっています。あんまり無責任なことは言えませんけど、勝負しないと駄目だと私は思ってます」

 五輪では栄光も挫折も経験したが、不安を抱えながらも燃焼した過去は現在の糧になっている。

 「長野市で生活してもう30年になりますけど、長野五輪での期待や応援にメダルという形でお返しできなかったことへの個人的な思いは常にあります。市長として『荻原になってよかった』と思っていただけるよう市政を展開することは、自分はやり切れなかったんだという思いを埋める取り組みでもあるんです」

 2004年、政界に転じる選択(参院選に初当選)をしたのも、自らの競技生活が背景にある。

 「競技人生を通して多くのことを学びました。転戦した海外では異なる文化や国民性、スポーツへの理解なども知って。オーストリアには国立のスキー学校が30以上あります。海外で多くのことを見聞きするうちに、もっと日本もスポーツへの理解を深めてほしい、という葛藤が芽生えたんです」

 長野市政を率いる立場となっても、五輪開催地としての経験を大きな資源と捉えている。

 「ウィンタースポーツはどうしても欧州中心でしたけど、札幌、長野、平昌に続いて北京がアジア4か所目の冬季五輪開催地になるので、アジア杯のような国際大会を始めても面白いと思いますし、今は難しいですけど、雪の豊富な日本へのアジア圏からの観光にも期待したいです」

 長野五輪にともに出場した双子の弟・次晴さんは北京入りした。

 「私はあまりメディア活動をしてこなかったので、テレビなどで活躍してくれる次晴のおかげで多くの方々が長く『スキーの荻原』を記憶にとどめてくれた。市長選での助けにもなりました。ありがたいです」

 ◆荻原 健司(おぎわら・けんじ)1969年12月20日、群馬県草津町生まれ。52歳。早大卒。小学5年からジャンプを始め、中学から複合に。五輪は4度出場し、92年アルベールビル、94年リレハンメル団体2連覇。98年長野は双子の弟・次晴氏と出場し、個人は兄弟で入賞(兄4位、弟6位)。2002年ソルトレークシティー後に引退。04年参院選で初当選。1期を務める。昨年10月、長野市長選に初当選。

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