自らの「言葉のチカラ」で批判を称賛に変えたKENTA…SNS時代の有名人のサバイバル法がそこに

スポーツ報知
会見でも常に激しく熱い独自の言葉で記者たちを魅了するKENTA

 2年前の5月。一人の前途有望な女子プロレスラーが急逝した。木村花さん、22歳。「死ね」「消えろ」―。リアリティー番組の下らない演出に悪のりした匿名の卑怯者たちのSNS上での誹謗(ひぼう)中傷に耐えかねての死だった。

 その年の1月4日に行われた新日本プロレス東京ドーム大会第0試合での花さんの華麗なファイトに魅せられ、試合後の会見で「本当に夢のような時間でした」と9分4秒のファイトを振り返った笑顔にも魅了された私は、その4か月後の死が本当に信じられなかった。

 一部の悪意も確かに沈殿するSNSの世界で、有名人がどう、このツールを使いこなし、サバイバルしていくか―。その最善のケースを教えてくれたプロレスラーがいる。現在のプロレス界で「最高のSNSの使い手」とされるKENTA(40)だ。

 今月5日に行われた新日・東京ドーム大会の棚橋弘至(45)とのIWGP USヘビー級戦。反則裁定なしのノーDQマッチとして行われた一戦でリング上に持ち込んだ5メートルの巨大ラダー(脚立)から落下。全治不明の大ケガを負い、欠場中のKENTAは11日、自身のツイッターを更新。治療のために入院したことを報告した。

 松葉杖(まつばづえ)をついた自撮り写真をアップ。「股関節を安静にする為に今日から入院する事に。股関節以外はもう大丈夫。明日にでも試合出来る」と現状報告。新日の発表「鼻骨骨折、左股関節後方脱臼骨折、背部裂傷、左環指腱性槌指で全治未定」という診断に心底、心配していたファンをとりあえず安心させ、コメント欄には「少し安心しました。本当に良かったです」「今回は無茶し過ぎ。危な過ぎる闘いはもうやめて!」などの声があふれた。

 しかし、私の目が引きつけられたのは、淡々と続けられた次の文章だった。

 「しかし2年前『死ね』って言われた俺が怪我の心配されるなんて。本当プロレスファンは身勝手な奴らだぜ笑」―。

 そう、2年前の1・5東京D大会。KENTAはオカダ・カズチカ(34)を破り、IWGPヘビー、インターコンチネンタル(当時)の二冠を達成した直後の内藤哲也(39)をリング上で襲撃。内藤による勝利の儀式「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン!」の大合唱を阻み、ドームを埋めた3万63人の大観衆の憎悪の視線を一身に浴びた。

 記者席にいた私も観客の最高のカタルシスの瞬間を奪った暴挙に「何してくれてるんだ? KENTA」と興奮。「史上最悪のバッドエンド」と題した記事を速報した。その後、KENTAのSNSには本人が書いたとおりの心ない言葉が書き込まれ続け、試合会場でもブーイングを浴び続けた。

 しかし、この男は並のレスラーとはひと味もふた味も違った。プロレスリング・ノアやWWE所属時代から定評のあった激しい打撃、闘志満々のファイトで観客の心をつかんだ上、抜群の「言葉のチカラ」で、その心をとらえ続けた。

 内藤を「鉄也、このバカチンが!」と、あえて名前の字を間違えて挑発。「愛してま~す!」が決めゼリフの棚橋も「愛してます詐欺」とバッサリ。YOSHI―HASHI(39)に至っては入場時に携える如意棒から「棒」と一文字で片付けるなど、常に次なる対戦相手とのストーリー作りをSNS上で展開した。

 この男に対する認識を、さらに改めさせられたのは日本中が新型コロナ禍に沈む2年前のことだった。

 WWE入りした14年から居住する米フロリダ州オーランドの自宅からツイッターを駆使。3月には小池百合子都知事による外出自粛要請にも関わらず出歩く若者に対し、「結局、俺が何を言いたいかっていうと…」という決めゼリフを枕詞に自身が試合後の会見で絶叫している写真をアップ。口元に「家にいろって事!」という吹き出しをつけてツイート。

 この投稿にファンが「すみません…。ゲーセンにおります」と書き込んだとたん、怒り爆発。「バカか! さっさと家に帰るんだ」と一喝。大きな話題を呼んだ。

 4月に安倍晋三首相(当時)が全世帯に「アベノマスク」を配布する方針を明らかにすると、「結局、何が言いたいかっていうと」の後に大文字で「欲しいのはマスクより補償って事!!」と強調した。

 そんな言葉の数々にファンも反応。ツイートのたびにコメント欄には「言動がヒールじゃない。もはやヒーローだよ」、「著名人がこうして警告することにこそ意味がある」などの称賛の声が集まった。

 オーランドの自宅にいるKENTAに通信動画を使ってのロングインタビューを試みた私が「KENTAさんの言葉に励まされるファンが多い」と言うと、「そういう(前向きな)風に受け取ってもらえるなら、言った甲斐があるんじゃないかな」とポツリ。

 「プロレスファンほどいい加減な生き物はないよ。今、『応援してます』って言ってくれるヤツらだって、こないだ(1・5東京D以降)まで俺に『帰れ!』って言っていた人でしょ。でも、それがプロレスのいいところだよ。ガンガン手のひら返すから。プロレスファンは手首が柔らかくないとね。まあ、でも、そんなヤツらだとは言え、今、こういう状況だからね。みんな安全第一で。ブーイング一つだって、一人いなくなったら寂しくなるわけだし…」と、本音を漏らした上で「結局、俺が何を言いたいかって言うと…。本当にしっかり、これ(感染拡大)を乗り切って、誰1人欠けることなく、また会場に来て、ブーイングして来いってこと!」と、いつもの決めゼリフでまとめてくれたのを昨日のことのように覚えている。

 37分間のインタビューの中で、私の心をがっちり捉えた言葉が「確かに昔からプロレスが好きな人やファンには自分の憧れのプロレスラーが言う言葉というのは少なからず、時として何かしらの力になったりするとは思うから、(自分の言葉も)何かになればいいとは思うけど、それは受け取る側の解釈だから」だった。

 そう、KENTAは自らのリング上の命がけの闘いと本音を何一つ隠さないSNS上での熱い言葉でファンの心をがっちりとつかみ、「死ね!」とまで言われた逆境を真反対にまでひっくり返して見せたのだ。

 今回の入院を報告するツイートを紹介した記事にあふれるファンからの心配と激励の声の数々に私はプロフェッショナルの本当の闘い方を教えられたし、そのタフさに一人の人間として、あこがれさえ抱く。

 そこには魑魅魍魎(ちみもうりょう)渦巻くSNS社会で有名人がどうサバイバルしていくかという教訓さえ横たわっていると思う。

 最後にもう一つ紹介したい言葉がある。

 1・5で自身を巨大ラダーから揺さぶり落とした棚橋が試合後に「うれしいとか、悲しいとか、悔しいとか、何の感情も残ってないです。ただ、ただあるのは虚無感…。虚しいだけ」と落ち込みもあらわにしたコメントを残すと、KENTAはツイッターでこう、つぶやいた。

 「悲しい事言うな。俺たちは覚悟を持ってプロレスリングやったじゃないか。今日のお前は最高だった。胸張ってくれ」―。

 「覚悟を持って」言葉を発信する。それは署名記事のもと自らの考えを書く記者もまったく同じだ。そして、結局、私が何が言いたいかって言うと「やっぱり、KENTAはかっこいいってこと」。それだけだ。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆KENTA(ケンタ) 本名・小林健太。1981年3月12日、埼玉・草加市生まれ。40歳。東京・修徳高時代にプロレスラーを目指す。99年、全日本プロレス初の一般公募オーディションに合格。00年、デビューも同年、三沢光晴氏らが旗揚げしたノアに移籍。丸藤正道とのライバル関係などで人気を呼ぶ。14年、米WWEと契約。ヒデオ・イタミのリングネームで活躍後の19年6月、盟友関係にあった柴田勝頼とともに新日のリングに登場し、同年のG1クライマックスに参戦。8月、ヒールユニット・バレットクラブ入りを表明。NEVER無差別級王座、IWGP USヘビー級王座に輝くなど新日のトップクラスに登り詰めた。174センチ、85キロ。

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