シバターVS久保優太の“やらせ問題”は総合格闘技ファンを裏切る愚行…RIZIN側はいかなる裁定を下すのか

シバター
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久保優太
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 日本総合格闘技史上、類を見ない“やらせ問題”が明らかになった。昨年大みそかの「RIZIN.33」で行われたシバター対久保優太の試合前に、両者の間で「1ラウンド目は本気でやらずに軽く流して、2ラウンド目からお互い本気でやろう」などと打ち合わせていたことが判明したのだ。

 シバターは、8日に自身のYouTubeチャンネルを更新。「何とかして、勝率の悪い試合を勝てないかなって考え抜いた結果、相手に油断をさせようと考えた」などと語り、久保に対して“やらせ依頼”をしたことを認めた。練られた計画だったとはいえ、なぜ誰も“やらせ”を見抜けなかったのか。

 この一戦は、初代K―1 WORLD GPウェルター級王者とYouTuberのいわゆる異種格闘技戦だった。試合直前、会場で流れる“あおりVTR”で、久保は「これで負けちゃったら、キックボクサーの権威というか、とんでもないことになっちゃう」と立ち技の看板を背負う意気込みを語っていた。入場では愛妻・サラが歌唱する中、落ち着いた表情で花道を進んだ。対するシバターは、ヒカル、DJまる、てんちむらYouTube軍団と自らマイクを持ちながら登場した。

 ファーストコンタクトは、久保の右のローキックだった。後ずさるシバターの左ふくらはぎに浅めのヒット。シバターは、プロレスラーが見せるロープにもたれた勢いで他方のロープに走り込む“ロープワーク”を使いながら、「ごめんなさい」といわんばかりの“リック・フレアーポーズ”でおどける仕草。さらに“タイガー・ステップ”で幻惑した。

 そんな中でも久保はローキックを放ち続け、圧力をかける展開。後退しながらもガードをするシバター。流れが変わったのは、開始1分3秒頃。右ローキックに合わせて放ったシバターの左右のフックがあごをとらえ、久保はロープに腰を落とした。ロープがなければ、ダウンをとられていた可能性もある。

 会場は一気にヒートアップ。一部で“シバターコール”も巻き起こった。左右のフックを振り回し、俄然、攻勢に出るシバター。久保は面食らった表情で防戦一方だ。シバターは左腕で久保の首を押さえながら、右のフックとアッパーを連打し、一瞬の隙をついて左腕に飛びつき腕ひしぎ十字固めを決めた。すぐにセコンドからタオルが投入され、わずか1回2分16秒で勝負は決した。

 シバターはセコンドと抱き合い、「もう何も言うことねえよ。久保さん、次はYouTubeでコラボしましょう」と呼びかけ、久保は苦笑い。「ネタじゃなくて、本当にこのリングに上がるのが嫌でした。さっきまで逃げ出したかったけど、YouTuberみんな来てくれて。俺の背中を押してくれました。みんな、ありがとう」と神妙な面持ち。と思いきや、会場に向かって「みんな俺が負けると思ったろ。おい、ざまぁ見ろ、YouTuberは強いんだー!」と絶叫した。

 番狂わせに、この日最大級の盛り上がりを見せた大観衆をはじめ、会場内で2人の試合に疑いを抱く者はいなかったように見えた。試合後、実況席の元総合格闘家でタレントの高田延彦はシバターについて「完全に総合格闘家のきめだよ」と、その資質を認めた。解説を務めた総合格闘家の川尻達也も「これはすごい。格闘技の楽しさとシビアさと厳しさを見せた試合だった」と絶賛したほどだった。

 格闘技において、番狂わせは歓迎されがちだ。2004年4月に開催された「PRIDE GRANDPRIX 2004 開幕戦」ヘビー級グランプリ1回戦でミルコ・クロコップから大金星を奪ったケビン・ランデルマンは今もコアなファンにとっては今も語り草だ。K―1出身のスター選手で絶頂期だったミルコに対し、レスリング出身のランデルマンは不利との下馬評だった。しかし、左フックの一撃で“立ち技最強”を1回KO。衝撃決着に会場は興奮のるつぼと化した。

 今回の試合でシバターが見せた鮮やかな腕ひしぎ十字固めは、一昨年の大みそかの「RIZIN.26」で行われた元K―1戦士・HIROYAとの戦いでも決め手となった得意技だ。1年前の記憶が、この決着に説得力を持たせたともいえる。そのHIROYAは、今回久保と対戦する予定だったがケガによりキャンセル。この騒動に発展したことは皮肉としか言いようがない。

 今回、久保がヒットさせた打撃は10発ほど。そのほとんどがローキックで、決定的なものはなかったように見えた。加えて、頭部への攻撃がなかったのはいささか不自然でもあった。しかし、美しい一本勝ちにファンは目を奪われ、後日こんな結末になるとは想像だにしなかっただろう。

 異種格闘技戦は、総合格闘技の華とされてきた歴史がある。1998年に開催された「PRIDE.1」で、プロレス最強を掲げた高田延彦が、400戦無敗の柔術家ヒクソン・グレイシーに挑み歴史的惨敗を喫した。00年の「PRIDE GP 2000」では桜庭和志が90分の激闘の末、ホイス・グレイシーに勝利。04年の「K―1 PREMIUM 2004 Dynamite!!」においては、魔裟斗が立ち技ルールで総合格闘家の山本“KID”徳郁を返り撃ちにした。

 筆者も長らく総合格闘技を観戦してきたが、今回のように音声やLINEのスクリーンショット画像が拡散するなど物証がそろった“やらせ”が明らかになった試合は記憶にない。ゆえに騒動は各所に飛び火している。同日開催された日本GPバンタム級トーナメントで優勝した扇久保博正は自身のYouTubeチャンネルで「あの試合は僕らとは別枠だと思っているので、同じものだと考えないで欲しい」と不快感を示し、「対戦相手とLINEするのはあり得ないことなので、そこも論外」と怒りをにじませた。

 シバターはすでに格闘技引退を宣言しているが、多くの選手や関係者からの批判が殺到し、騒動が収まる気配はない。“真相”を語ったYouTube動画では、イベント運営幹部の名前まで飛び出したが、RIZIN側はこの一件に関して沈黙を貫いている。真剣勝負だと信じて観戦した多くのファンを裏切り、総合格闘技の未来に暗い影を落とした愚行。果たしてRIZIN側はいかなる裁定を下すのか。

(記者コラム デジタル編集部・江畑 康二郎)

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