◆フィギュアスケート ▽北京五輪代表選考会・全日本選手権 第2日(24日、さいたまスーパーアリーナ)
男子ショートプログラム(SP)は、右足首故障の影響で4月の国別対抗戦以来252日ぶりの実戦となった昨年覇者の羽生結弦(27)=ANA=が111・31点をマークし、首位に立った。国際スケート連盟(ISU)非公認ながら自身の世界最高得点に0・51点まで迫り、ネーサン・チェン(米国)がGPシリーズ・スケートカナダで記録した106・72点の今季世界最高得点を上回った。羽生は26日のフリーで、世界で成功例がないクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑む。
羽生は突き上げた右手をゆっくりと下ろすと、わき出た思いをかみしめるように胸に当てた。総立ちの観客席を見渡し、1万人の拍手を浴びた。「最初のジャンプがすごくきれいに決まって、初戦としては落ち着いてできた。みなさんに立っていただけるような演技ができて、ちょっとホッとしている」。252日ぶりの実戦で、ノーミスの滑りを披露。非公認ながら111・31点の今季世界最高得点をたたき出した。
冒頭の4回転サルコーは9人中6人が満点をつける完璧なジャンプ。出来栄え点(GOE)は4・57点を引き出した。4回転―3回転の連続トウループ、最後の難しい入りからのトリプルアクセル(3回転半)も成功。「羽生結弦にしかできない表現」を追求し、ジャンプ前に加速するためのクロスをほとんど入れていない。2分50秒、一挙手一投足を音にはめてみせた。
初披露の青の衣装を身にまとい演じたのはバイオリン曲「序奏とロンド・カプリチオーソ」のピアノ版。ピアニストの清塚信也氏に依頼し、ピアノバージョンに編曲してもらった。「すごくパッションにあふれる。だけど、そこに切なさや繊細さがあふれるものにしてほしい」と伝えた。表現力を評価する演技構成点は49・03点。15年GPファイナルで「演技力」での満点はあるが、「曲の解釈」では自身初となる10点を初演で記録した。
11月中旬のNHK杯前に古傷の右足首を痛めた。苦悩や、クワッドアクセル挑戦の道程。すべての感情を曲に乗せた。「一心不乱に戦いながら、何かをつかみ取るというイメージ」で舞った。試合を想定した演技練習では、実は一度もノーミスでできていなかった。「すごく緊張した。でも、試合同様の練習をしているので、できると思ってやった」。大一番に合わせる勝負強さは健在だ。
優勝で決まる北京五輪代表に王手をかけた。フリー「天と地と」では、世界で成功例がないクワッドアクセルを初投入する。「もちろん挑戦するつもり。体の回復と集中力を高めたい」と静かに闘志を燃やした。「クリスマスということを完全に忘れるくらい集中できた。みなさんもどうか、祈りだったり応援の力を、サンタさんとしてくださればうれしい」。挑戦者は、今季初演から果敢に夢の大技に挑む。(高木 恵)