坂上忍の覚悟に応えられなかったフジテレビ…勝負の改編から1年3か月での「バイキング」終了に感じたズレ

スポーツ報知
2017年12月の「バイキング」特番収録後のインタビューで「天狗にはなれません」と言って笑った坂上忍

 上から目線にも感じる政治家らへの批判にくすぶり続けるパワハラ疑惑。確かに俳優・坂上忍(54)の司会術には批判も多かった。それでも私はフジテレビ系「バイキングMORE」(月~金曜・午前11時55分)の突然の終了発表に大きな戸惑いを覚えた。

 12日に一斉発表された来春改編での番組終了。13日の同番組では生放送終盤の午後2時40分過ぎ、「今日のまとめ」のコーナーで進行役の伊藤利尋アナウンサー(49)が「『バイキングMORE』ですけれども、今日、報道が出ましたけれども来年の春で…」と切り出すと、「えっ?、その話するの?」と坂上。伊藤アナが「その話しないと」と言うと、坂上は「生放送で…。こういう話?」と「卒」と書いたパネルを取り出した。

 「まあ、8年ですか。帯で任せていただいて丸7年くらいですけど。7年間の大半を肉体的にもつたない脳みそも『バイキング』を中心にお仕事をさせていただいてきたんですけど、来年、55(歳)になりますので、どこかのタイミングで動物好きのおじさんとしての時間をもう少しいただけませんかというお話を(局側と)させていただいたまでですね。当初は本当にわがままが効くならば、僕だけ卒業させていただいて、番組は存続して…」と番組への愛着もにじませた。

 今回の番組終了は、あくまで坂上からの申し入れ。自身のライフワークである動物の保護活動に全力を尽くしたいという意向から番組卒業を申し出、フジもこれを受け入れ、終了を決めたという流れだ。

 長寿番組「笑っていいとも!」の後を受け、2014年4月に始まった「バイキング」。当初は日替わりMCで、坂上は月曜担当だった。しかし、歯に衣(きぬ)着せぬ発言が人気を博し、15年からは全曜日の総合MCに就任。社会問題やニュースについて徹底討論するスタイルが定着し、20年秋からは「バイキングMORE」として3時間に拡大。フジの昼を支えてきた。

 今回の終了劇に大きな違和感を覚えたのは、放送枠拡大時の記憶が鮮明だったからだ。

 昨年9月7日、東京・台場の本社で行われたフジテレビ10月期の番組改編会見。改編率は全日帯(午前6時~深夜0時)33・1%、ゴールデン帯(午後7~10時)22・3%、プライム帯(午後7~11時)20・7%と大規模なもの。18年4月、「みなさんのおかげでした」、「めちゃ×2イケてるッ!」といった看板バラエティー番組を一斉に終了させた「史上最大の改編」の際の全日28・2%、ゴールデン29・8%、プライム29・5%に匹敵する数字だった。

 「プラスの改編」をテーマにした大規模改編の主役が坂上だった。目玉として発表された「バイキングMORE」の枠拡大。安藤優子氏と高橋克実MCの「直撃LIVEグッディ!」を終了させてのウイークデーすべてカバーの3時間。坂上が1枚看板の巨大情報番組の誕生だった。

 当時、「週刊文春」が報じた番組スタッフへのパワハラ疑惑の渦中にいた坂上だったが、その時点で完全に「フジの顔」になっていた。冠番組「直撃!シンソウ坂上」こそ終了したものの「バイキングMORE」に加え、メインMCを務める「坂上どうぶつ王国」(金曜・午後7時)に「本音でハシゴ酒」コーナーのナビゲーターを務める「ダウンタウンなう」(現在は終了)と、フジの“坂上銘柄”の番組は数多かった。

 坂上と話す機会に恵まれたのは、4年前の17年12月、フジ6階のスタジオで行われた「バイキング」5時間特番の収録直後にセッティングしてもらったインタビューの場だった。当時の坂上は民放キー局4局で全9つのレギュラー番組を持つテレビ界の“モンスター”。私の頭の中には坂上と並ぶテレビ界の人気者に聞いた言葉があった。

 「芸能界で一番すごいと思うのは坂上忍さん。私も結構、いろんなものを犠牲にしてテレビに向き合っていますけど、あの覚悟の仕方を見ていると、この人にはかなわないなと思う」―。

 当時、レギュラー番組8本の人気者・マツコ・デラックスが坂上を評して言った、このコメントが、ずっと頭にあったから、初対面の坂上にマツコの言葉を伝えた上で聞いた。

 「今日の収録でも坂上さんの覚悟の強さを感じた。過去には『明日やめてもいいという思いでやっている』とも発言している。その覚悟は、ずっと持ち続けているものなのか?」―。

 「変わらないですね、はい」。こちらの目を正面から見つめた坂上は、そう言い切った。

 「いい意味で(俳優という)よそ者であることを利用させていただいている。よそからバラエティーの世界に来させていただいているんで、そこで当たり前のようにしがみついてもしようがないというか」―。

 4歳での子役デビューから数えると芸歴50年のベテラン俳優だが、バラエティー、情報番組のMCは当時、専門外。だからこそ「よそ者」として、番組にしがみつくことなく、毎日勝負をした。一見、乱暴に響くコメント、態度だって、へっちゃらだ。この世界にしがみつこうと思っていないから失うものもないと感じた。

 4年前のインタビューで「バイキング」におけるMC術について「とにかく、しゃべりで埋めようということ。いろいろな事件であるとか、不倫とか、いろいろなものがありますけど、どんなものに対しても情報で埋めるだけではだめ。情報も大事なんだけど、それに対して、出ている人たちが合っていようと間違ってようが、どう感じているのかっていうのを言葉に出していただこうっていうスタンスなので」と本音で語った坂上。そう、軋轢(あつれき)を生んでも、あくまでも自分の言葉で物事を捉えるという手法を貫き通してきたのは確かだ。

 思い出した会話がもう一つ。10時間以上の収録を終えた後のインタビューの最後に坂上が「すみません。いつもありがとうございます。なにとぞ一つ、よろしくお願い致します」と深々と頭を下げたので、こちらも思わず言った。

 「一見(いちげん)の記者にもそういう感謝の姿勢で接し、本気で番組を続ける限り、『バイキング』の視聴率は落ちないんじゃないですか?」―。

 ニヤリと笑った坂上の答えは「そんな天狗にはなれません。はい」だった―。

 その時、感じたのは、自分の近未来さえ、じっと、冷静に見つめているゾクリとするほどの体温の低さ、冷たさだった。同時に坂上の行動原理、その言動の全てが自分が関わる番組をより良くするためにだけ発動していることも分かった。

 いつでもやめてやる―。そんな思いで命がけで日々、番組作りに臨んでいるから、スタッフにも、共演者にも厳しい言葉や態度が飛び出す。そして傷つける―。私は今でもそう思っている。

 厳しすぎる言葉で人を傷つけることを決して良しとはしないし、一緒に仕事をしたくはないタイプとも正直、感じる。

 だが、こうも思う。番組作りにおいての強い「覚悟」こそが坂上の個性であり、武器である一方、ほんの1年3か月前に、そのMC力にすべてをかけ、月から金曜までぶっ通しの3時間帯番組のMCを任せたフジに、そこまでの「覚悟」はあったのだろうか? 

 当時、「フジは坂上忍にすべてを賭けるのか…10月改編の目玉は『バイキング』の1時間延長」というコラムを書いた私は今回、フジは賭けに負けたと思うし、起用する前から分かっていたはずの、時に暴走する、その個性を守り切れなかったのは確かだと思う。

 物の言い方や態度にこそ不快感を催す視聴者もいただろうし、4年前のインタビュー時からフジにおける坂上の“王様化”がより進んだのかもしれない。

 ただ、日々の生放送を見る限り、芸歴50年の「覚悟」のもと、日々、世間の不条理に牙をむき続ける、その姿勢は、私にはとても潔く映った。だからこそ、中途半端にも見える退場劇が悔しい。(記者コラム・中村 健吾)

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