【ヤクルト】「こんな思いは絶対にしたくない」代打の神様・川端慎吾を支えた悔しさと苦しみ

スポーツ報知
日本一を決め、高津臣吾監督の話を聞きながら川端慎吾(中)

 “神様”が泣いていた。計り知れない重圧から解放された感情が、本人も予想外の涙となってあふれ出た。11月27日の日本シリーズ第6戦(ほっと神戸)。オリックスを下して、ヤクルトが20年ぶりの日本一を決めた。延長12回2死二塁から決勝の左前適時打を放ったのは、代打で登場した川端慎吾内野手だった。歓喜の瞬間、マウンドに出来た輪の中で川端の目から涙があふれた。

 「本当に泣くつもりなかったんですけど、涙が止まらなかった」

 多くの選手が涙を浮かべる中、高津監督は対照的に笑顔でナインをねぎらった。神戸の寒空の下、激闘を終えたツバメ軍団の手で、指揮官が10度、宙を舞った。

 「(シーズン)最初の方は正直、チームのことを考える余裕もなかった。何とか自分の打撃を取り戻さないといけないと、そのことしか考えていなかった」

 日本シリーズを直前に控えたある日、川端が言った。15年には打率3割3分6厘で首位打者を獲得した天才打者も、19年は37試合、20年は39試合の出場止まり。今季は代打として勝負どころでの起用がメインとなり、必死だった。3月30日のDeNA戦(横浜)では決勝適時打、6月20日の中日戦(神宮)では決勝2ラン。結果が、失いかけていた自信を取り戻させた。

 「本当、一本、一本ヒットを打つたびに、積み重ねるたびに自信は戻ってきた。前半が終わって、五輪期間が終わったくらいから、だいぶ自信を取り戻しました」

 卓越した打撃技術はその後も発揮され、代打で82打数30安打の打率3割6分6厘、真中満(ヤクルト)の持つ代打安打の日本記録にあと1本に迫る、プロ野球2位の記録を残した。神がかり的な活躍は、“代打の神様”と評された。

 代打とは、特殊なポジションである。通常、先発の野手なら4打席程度あるが、代打は1打席勝負。しかも試合の流れを左右する重要な場面での起用がメインだ。仮に凡退すれば、挽回の機会はいつになるか分からない。チームが敗れれば、その責任を背負いながら次のチャンスまでの時間を過ごさなければならない。プロ16年目、百戦錬磨の川端をして、簡単に受け止められる重圧ではなかった。

 「簡単に打てるポジションではないことはもちろん分かってはいた。だけど本当に代打ってめちゃくちゃ悔しい。打てなかった時に、次はいつ取り返す時が来るか分からないし、次の日に代打で回ってくるかも分からない。すぐに取り返すことができない」

 重圧に打ち勝つ方法を模索した。答えはシンプル。1つは、過去の悔しさを味わいたくない―という強い覚悟を持つことだった。

 「去年、おととしと苦しい思いをたくさんした。こんな思いは絶対にしたくない。打席に入る前に、そういう気持ちを必ずしっかりと持って入った」

 もう1つは、積極性を失わないこと。1打席勝負の代打では、チャンスボールは多くない。消極的な姿勢では好球を逃し、自分の首を絞めることにつながってしまうからだ。

 「とにかく後悔だけはしないように、初球からどんどん打っていく。もちろん積極的に」

 負担の大きなポジションであるからこそ、役目を果たしたときの充実感の大きさも知った。

 「この打席は絶対に打つんだ、と思って打席に入っていた。逆に打った時はめちゃくちゃうれしいし、気持ちいい」

 悲願の日本一をつかみ、来季はセパ11球団からマークされる立場になる。前回リーグVを果たした15年の翌年は5位に沈んだ。苦い経験を知る立場として、同じ失敗はしない。

 「この成績に満足することなく、オフからしっかり練習して来季に向けて準備したい。前回の優勝の時も連覇することができなかった。連覇は本当に難しい。そこを目指してみんなで一緒に一生懸命、戦っていけたら」

 完全復活は、ゴールではない。チームを勝たせる一打を放つために、川端慎吾の理想形はまだまだ先にある。(ヤクルト担当・小島 和之)

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