「泣くつもりはなかったけど…」 加藤桃子清麗インタビュー

スポーツ報知
タイトル獲得後の取材で涙を浮かべた加藤桃子清麗

 まだまだ「2強時代」とは言わせない―。11月17日に終幕した将棋の第3期清麗戦五番勝負第5局で挑戦者の加藤桃子女流三段(26)が里見香奈女流名人(29)=女流王位、女流王将、倉敷藤花=に勝ち、シリーズ3勝2敗で清麗のタイトルを奪取した。里見と西山朋佳白玲(26)=女王、女流王座=が分け合っていた女流8大タイトルのひとつを手にした。3年ぶりのタイトル復位を果たした実力者に思いを聞いた。(北野 新太)

 ―11月17日に清麗戦最終局でタイトル獲得、20日に倉敷藤花戦三番勝負第2局に勝ってタイ、21日の倉敷藤花戦最終局は敗れて「5日で二冠」はならず。激動すぎる1週間でした。

 「もうとにかく走り切りました。うれしいことも悲しいこともありましたけど、無我夢中で走り抜けました。清麗戦の第3・4局と連敗して気持ちは落ちていたんですけど『あと1週間だから!』って思い直して」

 ―3年ぶりにタイトルに復位して。

 「心からうれしいです。いつ自分に打ち克てるのかと考えていたので。里見さんに勝てたこと、フルセットで勝てたことが本当にうれしくて…」

 ―最終局は対局開始時から落ち着いていたように見えました。

 「思い詰めて臨んだんですけど、いつもの将棋会館での対局で、記録係の竹部(さゆり女流四段)さんが職員の方と小声で打ち合わせしているのが聞こえて、ああ、なんかいつもと同じ感じだな~って、なぜか思い詰めていた気持ちがラクになったんです。で、その後で竹部さんが振り駒ですっごい高いところまで駒を投げたので、ちょっと笑っちゃったんです。あの時、笑う余裕ができて…。竹部さんには獲得後に『おめでとうございます』とあいさつまでしていただいて…。本当にステキな先輩です。感謝しています」

 ―取材時には涙もあった。

 「泣くつもりはなかったんですけど…。タイトル戦の度にお守りを下さる方のことをふと思い出してしまって…」

 ―倉敷藤花戦三番勝負でも第1局を落としてから1勝を返して最終局を戦った。

 「序盤はうまくいっていたんですけど、分岐点で間違えてしまったので反省は多いです。正直、悔しい思いが残ります」

 ―1~2月の女流名人戦五番勝負では里見さんに挑戦して3連敗を喫しました。あの時とは漂わせる空気が違います。

 「あの時の自分には、目の前の勝負にこだわる姿勢が足りていませんでした。(対里見戦で)14連敗も喫している身で『ただ強くなりたい』ではいけないなと思って、何が何でも勝ちにいこうと思ったんです。自分自身に対して、里見さんに対して、将棋の神様に対しても『勝ちたい』の方が失礼じゃないんじゃないかと思うようになって…。清麗戦は序盤から自信のある展開に持ち込みたいと考えて指したので、原動力になったのは女流名人戦の3連敗だったのかもしれません。絶望ではなく、どこかに希望を生んだ3連敗だったと思います」

 ―強い相手に14連敗もすると「次も…」と不安になるものでは。

 「でも、14連敗にも序盤・中盤・終盤がありました。最初の頃は『自分はもう勝てないんじゃ…』と思いましたけど、一局ごとにつかめているもの、迫ることができている感覚もあって『里見さんに勝てるかもしれない度』は上がっていると自分では捉えていました。負け続けて悔しかったですけど、自分を見つめ直せた14連敗でもありました」

 ―8大タイトルを里見さんと西山さんの2人で分け合って「2強時代」と言われるようになって、正直な心境はどうだったのでしょう…。私もそんな感じで書いたりしましたけど…。

 「やはり…いい気持ちはしないですよね…。お二人にタイトルを取られたのは自分ですから…。もちろん、お二人は飛び抜けて強いですけど、いつかやってやるぞ、とずっと思っていました。まだ全然追いついてないですけど、ひとつ奪取することができたので、次は防衛しないと、ですね」

 ―飼っているハムスターたちも喜んでいるのでは。

 「倉敷藤花戦が終わって帰宅した後、弱っていたミルクちゃんが旅立ってしまったんです…。でも、自分が戦っている間、生きて応援してくれていたことがうれしくて。最後に『ありがとね』って伝えられました」

 ―ようやく少しオフの時間も出てくるのでは。

 「清麗戦第2局のおやつでいただいたホテルニューオータニさんのスーパーモンブラン(3564円)をもう一度食べてみたいです。本当においしかったんですけど、局面が難しくて1800円分くらいしか食べられなかったので…(笑)」

 ―清麗という美しい言葉をこれから名乗る。

 「まだ一度も『清麗』と揮毫していないんです。『麗』の字がとっても難しいので、一生懸命練習します!」

 ◆加藤 桃子(かとう・ももこ)1995年3月9日、静岡県牧之原市生まれ。26歳。安恵照剛八段門下。元奨励会員の父・康次さん(故人)に教わり、5歳で将棋を始める。2006年に棋士養成機関「奨励会」入会。14年、女性として3人目の初段に昇段した。19年3月に退会し、女流棋士転向。女流タイトル戦には18度登場。清麗1期、女王4期、女流王座4期の計9期(歴代6位)獲得。居飛車党。愛称は「カトモモちゃん」。

【女流名人リーグを終えて】

 加藤は今期の女流名人リーグ(主催・報知新聞社)を4勝5敗で終えた。11月25日の最終戦、勝った方が残留を決める渡部愛女流三段(28)との一局を制して陥落は免れたが、前期9戦全勝で挑戦者となった立場として、負け越しは屈辱的な結果と言える。

 「初戦(対鈴木環那女流三段戦)で負けてしまってから、なかなか思うように力を出せず、いろんな負け方をしたリーグでした。狙い撃たれた部分もあったし、研究の浅さもありました。心、技術、体力という総合力としては順当な結果です」

 最終戦の8日前に清麗の肩書を得たことが徳俵での力になった。「タイトルを頂いて落ちるわけにはいかない、と自分を奮い立たせました」

 来期は再び挑戦を目指す。女流名人戦でしか返せない借りもある。「今期は情けない限りでしたけど、また挑戦したいです。あの時と今とでは全然違うと思っているので、また里見さんとぶつかってみたいです」

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