四冠と四冠の時代 中村太地七段が語る女流棋界の今

スポーツ報知
里見香奈女流四冠(右)と西山朋佳女流四冠

 女流棋界は動乱の時を迎えている。現在、8大タイトルを里見香奈女流四冠(29)=女流名人、清麗、女流王位、倉敷藤花=と西山朋佳女流四冠(26)=白玲、女王、女流王座、女流王将=の両者が分け合う異例の構図になっている。「2強」は続くのか、どちらかが抜け出して「1強」になるか、実力者が割って入るか、中堅の意地か、若手の躍進か。中村太地七段(33)に見解を聞いた。

 里見香奈×西山朋佳。将棋史上初めて四冠と四冠が顔を合わせた一局だった。

 19日、東京・将棋会館「特別対局室」で行われたのは第43期女流王将戦三番勝負第2局。開幕局を落とし、後がなかった西山が里見に勝ち、シリーズは1勝1敗のタイに。決着は11月4日の最終第3局でつけることになった。

 16日の第1期白玲戦七番勝負第4局で渡部愛女流三段(28)を下し、無敗の4連勝で初代白玲となったばかりの西山は、局後に「3日前に四冠になれたので、すぐに後退はさみしいと思っていました。三冠と五冠では差があるなと思ったので意識はしました」と勝負に臨む上での心境を述懐した。里見は来たる決戦に向けて「できることをやって、いいコンディションで臨めたらと思います」と険しい表情で語った。

 里見は2008年、16歳の時に初タイトルを獲得して以降、女流棋界の中心に君臨し続けてきた。今年6月、史上最多のタイトル獲得通算44期に到達したが、同4月に西山が奨励会を退会して女流棋士に転向したことで、覇権を巡る分布図は大きく変化することになった。

 過去、西山は奨励会員にも門戸を開いているマイナビ女子オープン(タイトル称号は女王)、女流王座戦、女流王将戦の3棋戦のみに参加し、全てタイトルを獲得してきた。そして今、女流棋士となって全棋戦に参加し始めたことは、当然ながら全女流棋士にとっての脅威になっている。

 白玲戦第1局で立会人を務めた中村七段はシリーズの4局を振り返る。「相手の渡部さんは事前準備の周到さもうかがえる非常に良い将棋を全局指していて、序盤は互角に戦っていましたけど、やはり駒がぶつかった時の構想力、捻り合いになった時の力強さにおいて西山さんには圧倒的なものがあるなと感じました」。本来の強さを発揮しただけでなく、進化した何かを見たとも明かす。「奨励会の時よりも落ち着いた雰囲気と言いますか、漂わせる空気感が違うように感じます。盤上においても、腕力だけでなく、どこか本格志向が見受けられる将棋に変わってきていると思います」

 中村七段は、現在進行中の非公式戦「女流ABEMAトーナメント」で里見から指名を受け「チーム里見」の監督を務める縁がある。「里見さんは一歩ずつ積み重ねるタイプ。今も着実にステップアップしていることは一般棋戦で若手棋士に勝っていることでも証明しています。両者を比較すると、序盤では里見さんの精緻さがわずかに上、終盤の腕力では西山さんがわずかに勝る印象があります。里見さんは、タイトル戦で西山さんに勝てていない(対戦成績は27日現在で西山の13勝9敗だが、タイトル戦の結果では西山が4勝0敗と圧倒している)ことにもどかしさを感じているはずです」

 今後、女流棋界はどう変わっていくのか。「もちろん2強時代が続くこともあり得ると思いますが、どちらかが突き抜けて女流棋界を席巻する可能性もあります。西山さんにとって里見さんと戦うことは奨励会での挑戦に続くモチベーションですし、里見さんにとっては西山さんというライバルの出現によるモチベーションは大きいでしょう。しばらくはバチバチのバトルが見られると思います」

 そして、多くの実力者たちが両者の間に割って入ることを虎視眈々と狙っている。筆頭はタイトル獲得8期の加藤桃子女流三段だ。現在、清麗戦で里見に挑戦して2勝1敗と王手をかけている。「加藤さんは一時調子を落としたようにも感じましたが、今は完全に元気を取り戻したような印象です。まだタイトルを取っていないのが不思議なくらいの伊藤沙恵さんも非常に強くて、戦い方のバリエーションを少しだけ増やしたらさらに強くなりそうです。渡部愛さんも、遠回りしながら力をつけていく居飛車党本格派ですから、さらに強くなった時はものすごく強くなる可能性を秘めています」

 さらに、今までタイトル戦に縁がなかった中堅や若手にも好機は来るとみる。「簡単ではないですが、必ずチャンスはあります。鈴木環那さんが本来のポテンシャルを発揮して大活躍していますし、22歳で将棋を始めた加藤圭さんが女流順位戦で4位になったのは驚きました。将棋って、どんな年齢になってからでも強くなれることを示した意味で、多くの人にとっての希望のような2人です。同い年の鈴木さんがタイトル戦に登場する姿を自分もぜひ見たいです。若手では野原未蘭さんが気になります。中学生名人になるくらいの才能を持っていますし、強くなる雰囲気を感じます」

 変わりゆく現代女流棋界の中、当面は里見と西山が間違いなく中心になる。「もちろん里見さんも西山さんもまだまだ強くなる余地があるので、他の人をもっと突き放す可能性もある。さらに競争は激しくなります」

 28日、西山に里見が挑戦する女流王座戦五番勝負が始まった。中3日を挟み、加藤が里見に挑む倉敷藤花戦三番勝負が開幕。さらに中2日の11月4日、女流王将戦五番勝負の最終第3局を迎える。里見が五冠になるか、西山が四冠を堅持するか。女流棋界の今後を占う大一番となる。(北野 新太)

 ◆中村 太地(なかむら・たいち)1988年6月1日、東京都府中市生まれ。33歳。故・米長邦雄永世棋聖門下。2006年、四段昇段。早実高では今季で日本ハムを引退した斎藤佑樹投手と同学年。早大政経学部卒。11年度の勝率・851は67年度の中原誠十六世名人の・855に次いで歴代2位。羽生善治九段に3度目の挑戦をした17年の王座戦で初タイトルを獲得。タイトル戦登場は4度。

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