スポーツ報知は新企画「報知美術部」をスタートしました。世界で唯一のアートテラーと名乗る元吉本興業のお笑い芸人とに~がナビゲーター。「敷居が高い…」、「難しい…」と敬遠しがちな美術ですが、その魅力を分かりやすく、かつ面白く独自の視点やネタを交えて名作の数々を解説します。
「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」
東京・丸の内の三菱一号館美術館で今月15日から始まった展覧会「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」(来年1月16日まで)で、ある無名画家が注目を集めている。モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガンら巨星たちの名作が集う中、その画家のポストカードだけが売り切れたほど、多くの人を引きつけている。アートテラー・とに~は「2021年最大の事件」と語る。
無名画家作品のポストカードが即日完売
事件です。アートテラー人生も13年目になりますけど、こんなことはなかったですし、これからもないのかもしれません。無名画家の作品のポストカードが即日ソールドアウト(順次、追加入荷あり)…。聞いたことがありません。
彗星のごとく現れて旋風を巻き起こしているのは、今回の展開会で4点の作品が日本初公開されているドイツの画家レッサー・ユリィ(1861~1931年)です。同館の上席学芸員・安井裕雄さんは、ユリィの作品の前に人が滞留することを避けるため、当初の予定位置から展示場所を移す「ユリィシフト」を敷きました。
思い出したのは、橋本環奈さんがたった1枚の写真で「1000年に1人の美少女」で注目された時と、ディーン・フジオカさんが朝ドラ「あさが来た」に出演して「あれ誰!?」って騒然となった時。モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガンという「大河」「月9」主演級の豪華キャストがいる中、脇役だったはずなのにスターダムを駆け上がっているのがユリィなんです。アートって、口コミでジワジワ広がるものなんですけど、初日から話題独占というのはちょっと経験がないです。
一目ぼれする絵です。初めて見るのに、どこか懐かしさを感じる。キャッチーでありながらミステリアス、ノスタルジックかつセンチメンタル…いろんな表現で語ることのできる画風です。光の色合いなどは全く未知のものではなく、見た人それぞれにおのおのの原風景を想起させるような何かを感じます。
また、個人的な見解ですが、スマートフォンで撮影・画像編集した写真を思わせるところが現代の僕らの感性に刺さるからこそ、これだけの反響を呼んでいるのかもしれません。
また、レッサー・ユリィという不思議な名前も魅力です。ピカソ、モディリアーニ、バスキア、若冲。ブレイクする画家は名前も印象に残る人が多い。例えば「マイケル・スミス」だったら、これほど注目されなかったかもしれません(笑い)。
ぜひ会場に足を運んで、レッサー・ユリィの衝撃的なデビューを体験してみてください。
◆学芸員イチ推しはモネの《睡蓮の池》
上席学芸員の安井さんのイチ推しはモネの《睡蓮の池》です。シンプルな絵のように見えますが、奥行きと水面の深さとを一画面で表現した新しい視覚体験ができる作品です。安井さんいわく、1907年に描かれた《睡蓮》は当たり年。今展には、国内の美術館が所蔵する同じ構図の《睡蓮》も特別に2点展示されています。脂の乗った時代の《睡蓮》を会場で見比べてほしいです。
とに~
(本名・大山 敦士) 1983年3月20日、千葉県八千代市生まれ。千葉大卒業後、吉本興業のNSC東京を経て、お笑いコンビ「ツインツイン」のツッコミを担当。アートテラーとしての活動も始め、イベントやメディア出演などで美術の魅力を伝える。著書に「ようこそ! 西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ」「東京のレトロ美術館」。ブログ「ここにしかない美術室」を連日更新。