【ヤクルト】優勝の原動力になった「編成力」とフロントの覚悟 20年ぶり日本一へ、歴史は繰り返すか…元・番記者は見た

スポーツ報知
5回途中から3番手でマウンドに上がった田口麗斗(カメラ・中島 傑)

 歓喜の輪から高津臣吾監督が姿を見せ、その雄姿が浮かび上がった。

 ヤクルトが6年ぶり8回目のリーグ優勝を果たし、セ界の頂点に立った。前年度最下位からの見事な巻き返しは、2015年Vの時と重なる。高津監督は当時の真中満監督のもと、1軍投手コーチとして尽力。この年のペナントレースは交流戦でセ・リーグがパ・リーグに圧倒され、後半戦に入っても全球団が借金生活を送る日があるなど“セ界恐慌”の大混セのなか、最後にヤクルトがひらりと抜け出した。

 なんだか今年もちょっとそんな感じだった。巨人と阪神の、最後はマッチレースになるかと思っていたら、ひょいっとツバメが飛び出てきて、途端に巨人は真っ逆さま。ただ、今年のヤクルトは開幕前から不穏なムードを漂わせていた。ペナントレースが始まる直前、巨人から田口麗斗を電撃トレードで獲得。その一報が入ってきた時、昨オフに耳にした、ある情報が頭をよぎった。

 「投手コーチをもう1人。ファームの。育成に力を注げる経験豊富なコーチを」

 声の主は、6年前は2軍監督でチームの優勝を支えた伊東昭光編成部長。前監督の小川淳司GMのもとで編成部門を統括し、チームの再建に向けて奔走していた。2年連続最下位で12球団ワーストの防御率だった投手陣を整備するため、既に1軍投手コーチとして、楽天の1軍投手チーフコーチだった伊藤智仁コーチの復帰を内定。さらに強固な組閣作業を進めるなかで、前巨人巡回コーチの小谷正勝氏に白羽の矢を立てるも健康問題があって断念。伊東編成部長が現場復帰するのではというウワサもあったなかで、球団として、OBで1軍監督経験もある尾花高夫氏の2軍投手チーフコーチ招へいを決めた。

 そして、開幕直前の田口の獲得。点と点が結ばれ、1本の線につながったような気がした。

 田口と尾花コーチ。2人はいわば師弟関係だ。田口が巨人に入団した時の2軍投手コーチであって、尾花コーチが16年に1軍を担当すると、田口は開幕から先発ローテーションに入ってシーズン10勝。翌年も13勝を挙げてエースの階段を駆け上がるかに見えた。しかし、18年は2勝どまり。この年から師はコーチ職を外れ、編成本部アドバイザーを経て退団した。それが直接の原因かはさておき、田口は伸び悩んだ。数字にそれが如実に表れた。

 そんな2人が今年、開幕前に再び同じユニホームを着ることになった。実現させたのは、チームの「編成力」と、フロントの覚悟だ。

 かつてチームの看板選手だった池山隆寛2軍監督が入団時につけた「36」番を与えて“ポスト山田哲人”の期待もあった広岡大志を、同一リーグのライバル球団に放出してまでトレードを断行。そこには、田口と尾花コーチの1+1が、単なる2になるのではなく、3にも4にもなるしたたかな計算が透けて見えた。

 「それは…。ふふふ」と伊東編成部長は煙に巻いたが、実際に、田口は巨人ではなかったであろう先発ローテに入って戦力になり、シーズン終盤の優勝争いの時期には中継ぎに回るなど、貴重なワンピースになった。

 そして、一方の尾花コーチ。やはりかつて巨人で居場所を失った指導者の加入によって、2年目の奥川恭伸は完全ブレーク。伸び悩んでいた原樹理や大西広樹、高橋奎二、金久保優斗らが確かな1軍戦力として台頭した。

 「編成力」は、他球団を戦力外になった選手を獲得に踏み切るところにも出ていた。ケガをする5月下旬まで勝利の方程式に入って奮投していた近藤弘樹。楽天をクビになったところに手を差し伸べて育成契約を結び、戦力に変えた。昨年まで楽天にいた伊藤コーチが獲得を進言したが、編成担当者もまた地道に追い続け、しっかりと見ていた。

 「ずっと気にかけていたヤマベに確認したら、球は速いし力がある、と。それで獲得を決めた」と伊東編成部長。ヤマベとは山部太。20年前の01年にリーグ優勝決定試合で先発した左腕だ。岡林洋一、武内晋一と編成部のプロ担当で、伊東編成部長も含め、いずれもドラフト1位でヤクルト入りしたメンバーが編成部門からチームをしっかりと下支えしていたことは、今年の優勝を語る上で見逃せない。

 中継ぎエースとして優勝に貢献した今野龍太の獲得も同じだ。伊東編成部長が明かす。

 「19年オフに楽天を戦力外になると聞いた時、すぐに電話をしたら(楽天に残って)打撃投手の話があるっていうから、ならウチに来てほしいと。こんなにも活躍してくれるとは。人の人生はどう変わっていくか分からない。今年のスワローズもここまで…」

 そう言って小さな笑みを浮かべながら「俺は後押しするだけ。みんなの力だよ」と謙遜するが、選手の頑張りにその個々の力、高津監督のタクト力、フロントの編成力に覚悟力、かつてのドラフト1位たちのサポート力…。さらにそれぞれのスワローズを愛する力が触媒になって、全てが1つに融合しての今年のリーグ優勝に見えた。

 20年前の優勝にかぶるところもある。若松勉監督のもと、投手陣をまとめていた当時の伊東投手コーチは、前年に巨人をクビになった入来智を先発ローテで回して10勝。オリックスを戦力外になって獲得した前田浩継(現DeNA1軍サブマネジャー)も先発の一角に入れ、横浜(現DeNA)から自由契約になった島田直也(現常総学院監督)を中継ぎでフル稼働。最後を締めるのは高津監督だった。他球団を追われた男たちを見る「目」と再生力。歴史は繰り返している。あの時以来、20年ぶりの日本一へ、ヤクルトの挑戦がここから始まる。(佐々木 良機=1999~01年・ヤクルト担当)

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