eスポーツ実況のパイオニア・アール氏が描くゲーム業界の未来「ゲームの世界のステージを一つ上げたい」

スポーツ報知
eスポーツ実況の第一人者・アール氏。ポッドキャストが話題を呼んでいる

 プロのeスポーツキャスターの第一人者・アール氏がこのほどスポーツ報知のインタビューに応じた。

 eスポーツ大会での試合実況などで、プロゲーマーたちの熱き戦いを言葉に乗せて届けるのがeスポーツキャスター。アール氏は「eスポーツ」という言葉が生まれる以前から「ストリートファイター」など格闘ゲームの実況に20年以上携わってきたパイオニア。ゲームへの深い愛情と抱負な知識、的確な進行技術に加え「いってみましょー!」などの名台詞で彩られた明るくハイテンションな実況で、日本のみならず海外でも高い知名度を誇る。

 ゲーム大会の実況やMC以外にも「ドラゴンクエスト」のソーシャルゲームの運営&プロデュース協力、配信プラットフォーム「ミルダム」でのストリーマー(配信者)などさまざまな顔を持つ。今年から古舘伊知郎氏などが所属する「古舘プロジェクト」がマネジメント協力に加わり、同社が運営する各界のしゃべり手によるポッドキャスト「Talkers」のプログラム「ゲーマーの流儀」(毎週火曜配信)でもパーソナリティーを務めている。

 7月からスタートした「ゲーマーの流儀」はゲーマーの日常や実況論などが等身大の言葉で語られており「ゲームの専門的な話より、その人の価値観や経験が吸収できる番組になったらいいなと思っています」。個性豊かなプロゲーマーたちのエピソードなども紹介されており「どの業界でもトップまで行く人は変わった哲学や価値観を持っていて、成功体験もある。プロゲーマーや、業界を支える裏方の人たちの面白さをお伝えできれば」と、ゲームになじみのないユーザーでも楽しめるコンテンツになっている。

 アール氏とゲームとの出会いは少年時代。「大人が嫌がる、正論をぶつけて困らせるタイプの子どもでした。理不尽なことを見捨てられないタイプで…」。ゲームセンターで「ストリートファイター2」ブームが巻き起こっていた小学生時代、家族に中学受験を勧められ、勉強机に無理矢理向かわされたが、どうにも納得いかなかった。「いい中学に入って、いい高校にエスカレーターで行って、いい大学に入れば絶対幸せになるからやれ、勉強しろの一点張り。逆にそれが『ゲームやりたい』の反動となって、それが今でも続いてる感じです」

 中学受験には失敗。ゲームセンターに通い始めると、新しい自分の世界が広がっていくような気がした。「学校は均一化されることが良しとされていて『勉強しよう、いい子でいよう』というのがつまらなかった。でもゲーセンで出会った仲間は、社会に対して『本当にそうなのか』と斜めに見ている人が多かったんですよね。学歴至上主義をぶっちぎって、好きなことをやって生きた方が絶対楽しいぞ、って。ゲーセンの中には多様性があって、時には怖い思いもしたけどそれこそが社会。人と人なので全く違う価値観同士が戦うんですよ。ゲームというツールを通して人と触れ合った時、その人の本質に触れることができるんだ、素晴らしいものなんだと思いました」

 学生のころからゲームセンターでの主催大会でマイクを握るようになり、ゲームイベントなど数々の現場を踏んできたが、2011年の東日本大震災を機に、妻から「好きなことをやって生きたら」と背中を押され、プロのeスポーツキャスターとして生きていくことを決めた。「プロレスや競馬実況において重要なのは、やっぱり情景描写と知識。でも対戦ゲームにおける実況はリアルタイムでそこに映っているものの取捨選択なんですよね。情報の海からどの情報を取捨選択して伝えると、見ている人がわかりやすいかを心がけています」

 アール氏が言葉を発するときのメカニズムはどうなっているのか。「脳内にCPUコアが4つぐらいある感じです。フルで実況するときは6つぐらいあるかもしれません。すでに自分の中で理論が体系化して引き出しに入ってるものを開けて話す脳があれば、パッと思いついて話す脳、しゃべりながら次の展開を考えて話す脳、どういう表現を使おうかという脳、聞き手の表情を見てどういうふうに受け取られてるかなっていう判断をしてる脳みたいなのがマルチタスクで一緒に動いている」と超人ぶりを明かす。

 実況をしていない時間には「ゲーム以外のサブカルチャーを吸収するようにしています。自分の中に好きなカルチャーを入れておけば、実況中、ふとしたときに『あの映画のシーンに似てる…!』って言葉が出るので」と実況につながるような過ごし方をしている。実況には自分だからこその視点も言葉に込めていく。「作り込んできた言葉っていうのは(作為が)伝わってしまう。かっこ悪い部分を隠したり、綺麗なところだけを見せてっていうのだけではできないような気がして。自分のダメなところも含めて言葉にした方が、長くやっていくんだとしたら結果的に楽。自分自身の価値観を乗せるという方向になりました」

 この数年でeスポーツ業界の裾野は広がり、プロゲーマーやeスポーツキャスターになりたいと思う人たちも増加の一途をたどっている。「やりたいって人が増えてきて、多様化することはいいこと。『だって儲かるじゃん』で入ってくる人がいてもいいし、美しい日本語で、その人にしかできない味を出すのもいい。キャスター業に対する向き合い方は人それぞれで、その中で自分の入り口はプレイヤー目線を持てること。たくさんの多様性のなかで自分はどうやっていくかということにほかならない」。アール氏は自らの立ち位置をどこか俯瞰的に捉えながらも、根底に流れるゲームへの愛を忘れずに日々を生きる。「『自分の好きなことをして生きたい』っていう気持ちがあったからこの道を選んで、運よくこういう時流に乗ってお金も稼がせてもらえるような状況になった。でもこの先、目的が『都合良く稼ぎたい』になっていくと、軸足がブレていく。そこはブレないようにしたい。今はゲームの世界のステージを一つ上げられるようなこと、業界にとって何かを残せたらいいなって思うようになっていて、自分の新たな自己実現のため、少しずつ活動していきます」。アール氏の踏み出す一歩が、ゲーム界の未来につながっていく。

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