駿河台大・今井隆生、教師時代の教え子・永井竜二とチームメートで箱根目指す…「箱根への道」ロングバージョン

スポーツ報知
駐屯地の滑走路を走る予選会対策として長野・諏訪湖畔の長い直線路で走り込む駿河台大ランナー(先頭は今井)

 第98回箱根駅伝の予選会(10月23日、東京・立川市)が直前に迫った。悲願の初出場を狙う駿河台大には不思議な縁で結ばれた師弟ランナーがいる。埼玉県の中学校体育教師を休職し、心理学部に編入した31歳の今井隆生(4年)と、今井の教師時代の教え子だった永井竜二(3年)だ。かつて先生と生徒だった2人はチームメートとなり、駿河台大の仲間とともに「箱根への道」を全力で駆ける。

 6年前、埼玉・越生町の越生中学校。体育教師だった今井は駅伝チームを指導していた。各部の俊足たちが集まったチームの中にバスケットボール部3年生の永井がいた。年齢差は10歳。教師と生徒だった2人は今、チームメートとして同じ夢を追っている。

 昨年4月、今井は教員の「自己啓発等休業」制度を利用し、駿河台大の心理学部3年生に編入した。「担任クラスの中で不登校の生徒がいました。私なりに一生懸命アプローチしましたが、結局、生徒の力になれなかった。教師として力不足を実感した。今まで勉強していなかった心理学を学んで、もっと生徒に寄り添える先生になりたいと思いました」と編入の理由を明かす。同時に、もうひとつ壮大な挑戦を決めた。東京・大泉高時代は陸上部に所属し、箱根駅伝出場を目標としていたが、全国レベルに届かず、日体大に入学後はトライアスロンに転向した。

 トライアスロンで能力を発揮し、世界大学選手権に出場するなど活躍した。「その頃はトライアスロンに全力を尽くしていたので、箱根駅伝への未練はありませんでした。4年生だった2013年は日体大が箱根駅伝に30年ぶりに勝ちました。クラスメートに優勝メンバーもいたし、素直にうれしかった」と振り返る。卒業後も実業団でトライアスロン選手として活動した。走力を磨くために参加したランニング練習会で駿河台大の徳本一善監督(42)と知り合い、アドバイスを受けるようになった。

 2016年にトライアスロン選手として現役を引退し、埼玉県の教員となった。体育教師、陸上部の顧問を務めながら市民ランナーとして大会に参加した。勤務先の中学校が駿河台大と近かったため、休日は生徒を指導した後、駿河台大で練習を重ねた。「水泳と自転車はやはりパワーが必要で、トライアスロンの選手時代は体重59キロでした。ランだけに絞ったら52キロに減って一気に走力が上がりました」と笑う。2018年の栃木・大田原マラソンでは優勝を飾った。いつしか、封印したはずの箱根駅伝出場という夢を現実的に考えるようになった。

 「駿河台大で心理学を勉強して、箱根駅伝にも一緒に出場しようぜ」。徳本監督の熱いエールが最終的に今井の背中を押し、中学校教師の休職と駿河台大への編入を決断した。

 一昨年度は1年生のクラスを担任していたが、昨年3月に新型コロナウイルス感染拡大の影響で一斉休校となり、慌ただしいまま生徒と別れた。原則、公立校の教員は人事について口外してはいけないため、生徒に何も伝えずに休職した。「生徒は驚いたでしょうね。本当はお別れの言葉を交わしたかったけど仕方ありません。しっかり勉強して、箱根駅伝を走って『頑張っているよ』と生徒に伝えたいですね」と今井は遠くを見ながら話す。

 実業団経由で箱根駅伝に出場した選手は多いが、教員経験者は異例中の異例。箱根駅伝100年の歴史でも画期的な挑戦だ。休業期間中の2年間は当然、給与はない。「貯金を切り崩しながら頑張っています」と今井は爽やかに笑う。

 昨年4月、突如、駿河台大駅伝チームに加わった今井を永井は驚きを持って迎えた。「中学生の時、駅伝チームだけではなく、体育の授業も今井先生に教わっていた。大学では、今井先生と呼べばいいのか、今井さんと呼べばいいのか…最初は戸惑いがありました」と正直に明かす。しかし、一緒に走る日々が続くと「先生と生徒」の意識は薄れ「チームメート同士」に変わった。「よく思い出せば、中学時代も今井さんは生徒と一緒に走っていました」と永井は苦笑いをしながら話した。他のチームメートと同様に「今井さん」と呼ぶことにも違和感はなくなった。

 今井は、元教え子との不思議な再会をうれしそうに語る。「中学生だった永井と大学でチームメートになるなんて想像できなかったけど、楽しい。ショボい姿は見せたくないし、絶対に負けたくないですね」

 今井が3年生、永井が2年生だった昨年の箱根駅伝予選会には2人そろって出場した。今井は全体195位でチーム6位、永井は全体242位でチーム9位。駿河台大は10位通過の専大と4分6秒差の15位で敗退した。

 悲願の初出場を狙う今季、チームは着実に成長した。1万メートルのレースを4組行い、各組2人計8人の合計タイムで7枠の本戦出場権を争った全日本大学駅伝の関東選考会では次点の8位と健闘。主将の阪本大貴(4年)は「昨年まで箱根駅伝は漠然とした目標でしたが、今は本当に予選会を突破できる、という手応えをチーム全員が持っています」と前向きに話す。

 今年の予選会には41校が参加。箱根切符は10枚だけだ。「冷静に各校の戦力分析すると、我々は10位か11位。ギリギリの戦いになることは間違いない」と徳本監督は激戦を覚悟する。

 来春、駿河台大を卒業し、中学校の体育教師に復職する今井にとっては今回がラストチャンス。11日に14人の登録メンバーが発表され、ケニア人留学生のジェームス・ブヌカ(4年)、主将の阪本、前回の箱根駅伝に関東学生連合の一員として出場した町田康誠(3年)らと共に今井、永井も順当にメンバー入りした。

 「今井は31歳ながら、この1年でチームで一番、成長した。チームメートに与える影響は大きい。永井は10月に入って調子が上がってきた」と指揮官は期待を込めて話す。

 徳本監督は箱根駅伝史に残る伝説のランナー。法大時代に4年連続出場。1年時1区10位、2年時1区区間賞。3年時は2区2位で法大を首位にトップに引き上げた。しかし、4年時はまさかの暗転。2区をスタート直後に右足を痛め、7・6キロ地点で途中棄権を強いられた。大手町スタートから28・6キロ地点での途中棄権は箱根駅伝史上最短記録。箱根路で天国も地獄も味わった。箱根駅伝史上初めて茶髪とサングラスで疾走した選手としても知られる。

 箱根路を沸かせたランナーは2012年に駿河台大の監督に就任し、10年目の今季、個性的なチームを作り上げた。その象徴が今井隆生だ。31歳は熱く語る。

 「予選会が終わった後、滝のような涙が流れることは今から分かっています」

 それは、うれし涙となるか。それとも、悔し涙となってしまうのか。勝負の時が迫った。(竹内 達朗)

 ◆第98回箱根駅伝予選会開催要項

 ▽日時、コース 10月23日午前9時35分、東京・立川市の陸上自衛隊立川駐屯地を周回する公認コースのハーフマラソン(21・0975キロ)。

 ▽競技方法 全選手が一斉スタート。各校、10~14人の登録選手の中から10~12人が出場し、上位10人の合計タイムで争う。留学生は登録2人以内、出場1人以内。上位10校が本戦の出場権を獲得する。関東学生対校の成績による減算タイム(関東インカレポイント)は12年の予選会を最後に廃止された。

 ▽出場資格 登録選手全員が19年1月1日~21年10月10日に1万メートル34分以内の公認記録を有すること。

 ▽関東学生連合 予選会で敗退した大学の中から個人成績上位者を中心に選考。例年通り5月の関東学生対校の成績も考慮される。1校1人に限定し、本戦出場経験がない選手が対象。留学生を除く。本選ではチーム、個人ともに順位がつかないオープン参加となる。

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