【記者コラム:高木 恵】羽生結弦が夢をかなえるシーズンに

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羽生結弦(カメラ・矢口 亨)

 北京五輪シーズンが始まった。気になるのは羽生結弦の今だ。

 コロナ禍前が懐かしい。夏のトロントでの公開練習で新プログラムが明らかになり、オータムクラシックで新衣装がお披露目になる。心の準備に若干の余裕があった。

 昨季初戦は12月の全日本選手権。10か月ぶりの競技会での姿だった。そこで目にし、耳にするすべてが新情報だった。ショートプログラムは「レット・ミー・エンターテイン・ユー」、フリーは「天と地と」。シーズン初戦で圧倒的な滑りを見せ、優勝。演技に驚き、試合後に明かした苦悩にまた驚いた。

 コロナ禍で拠点のカナダに戻れずコーチ不在、一人での練習が続いた。「どん底まで落ちた。自分がやっていることが無駄に思えた」。「そもそも4回転アクセルって跳べるのか?」と自問自答もした。「一人だけ暗闇の底に落ちていく感覚の時があった」。入ってくる他の選手の情報に焦りを覚え、取り残されている気になったという。

 4月の国別対抗戦のエキシビションの練習で、羽生は4回転アクセルに何度も挑んだ。「毎日これを一人でやっていたのか」と衝撃を受けた。転倒時のドスンという衝撃音は会場中に響き渡った。氷に体を打ち付けては、声を張り上げ、自分を鼓舞し、立ち上がり、また跳んだ。なんて過酷な作業だろう。

 覚悟が違う。平昌五輪で連覇を果たした直後に「唯一のモチベーション」と言い切った。「4回転アクセルのために生きている」と口にしたこともあった。これまで数々の偉業を成し遂げてきたスケーターが、今再び、前人未踏の領域に達しようとしている。

 今季初戦は11月のNHK杯を予定している。その日まで、1か月。公式練習を想像しただけで、手のひらに汗がにじむ。ショートプログラムは何を選んだのだろうか。初戦から4回転アクセルに挑んでくるのだろうか。何を語るのだろうか。羽生が今、健康で、前向きな気持ちで、スケートに全力を捧げる日々を送れているといいなと思う。

 3月の世界選手権後に、笑顔で口にした言葉が耳に残っている。「確実にうまくなっているんで、羽生結弦。絶対にうまくなっているんで」。間違いない。

 羽生が夢をかなえるシーズンを、見届けたい。(高木 恵)

 ◆高木恵(たかぎ・めぐみ) 北海道・士別市出身。ゴルフ担当を経て、2015年から五輪担当。16年リオ五輪は水泳とレスリング、18年平昌五輪はフィギュアスケート、21年東京五輪は柔道とレスリングなどを取材。

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