「教授」勝又清和七段が見つめた藤井聡太三冠の変遷と現在地「14歳の藤井さん、15歳の羽生さん」

スポーツ報知
竜王戦第1局で先勝した藤井聡太三冠(日本将棋連盟提供)

 将棋の第34期竜王戦七番勝負が8、9日の第1局で開幕し、挑戦者の藤井聡太三冠(19)=王位、叡王、棋聖=が豊島将之竜王(31)に先勝してタイトル奪取に向けて白星スタートを切った。今期は棋聖防衛、王位防衛、叡王奪取。史上最年少三冠となり、2016年12月のデビューから5年弱で棋界統一を視野に捉え始めている。「教授」の愛称を持つ勝又清和七段(52)は、藤井将棋の変遷と進化を誰よりも見つめてきた棋士。同世代の羽生善治九段(51)と重ねて「神が与え給うた棋士」と語る。(北野 新太)

 ―現役棋士として、10代三冠の誕生をどのように受け止めているのでしょう。

 「タイトル獲得者には2年目のジンクスというものがあります。羽生さんは19歳で竜王になりましたけど、翌年は1勝4敗で失冠しました。谷川浩司先生も21歳で名人になって、翌年は防衛はしましたけど棋聖挑戦は3連敗で敗退しています。さすがに藤井さんも調子を崩すのでは、と思って『今期は防衛で十分。タイトルを増やすなんてことになれば神様なのかもしれない』なんて原稿を書いたりしていたら…こんな感じですから。驚いているのが正直なところです」

 ―さらなる活躍につながる契機のようなものはあったのでしょうか。

 「1月の朝日杯、7月の王位戦第2局で豊島さんに勝った将棋はひとつの転機だったと思います。6連敗していた豊島さんに初めて勝った朝日杯、黒星スタートからタイに戻した王位戦第2局。どちらも劣勢からの逆転です。藤井さんには指運(ゆびうん=難解な局面で迷いながら指した手が好手になるか悪手になるかの運)を手繰り寄せる桁違いの力があるんです。『ここで負けていたらどうなっていたか…』という将棋が多いんですけど、藤井さんは勝つんですよね」

 ―2012年、子供大会で小学3年の藤井さんを見ている。

 「よく覚えているのは負けて泣いている姿と全く動じていないお母さんです。普通、親も慌てたりきつく叱ったりするものですけど、すごいお母さんだな…と思いましたし、泣いたまま次の将棋に勝った藤井さんには驚きました。泣く子は数え切れないくらい見てきましたけど、泣いたまま勝った子は初めて見たので」

 ―やがて棋士になり、デビューしたまま不敗で樹立した史上最多29連勝は社会現象になりました。

 「衝撃的だったのは9連勝目の竜王戦6組・所司和晴七段戦で指した▲7六桂でした。相手玉の逆方向から桂馬を打っていく手で『本当に中学2年生ですか?』と…」

 ―なぜ、その一手がそんなに衝撃だったのでしょう。

 「15歳だった羽生さんのことを思い出したんです。1986年度の順位戦C級2組・小堀清一九段(当時74歳)戦で羽生さんはやはり相手玉の反対側から桂馬を使う▲7五桂という手を指しています。当時、17歳の奨励会員だった私が記録係だったんです。目の前で見て『年下の人がこんな指し回しをするのか』と…。ちなみにその一局は深夜0時33分に終わって午前9時半まで感想戦を続けた有名な将棋です。これはとんでもない世界だぞ…と思っていたら、朝になって掃除のおばさんに『あんたたちっ! いい加減にやめなさいっ!』と怒られたのを覚えてます(笑)」

 ―デビュー時と比べると藤井さんはどのくらい強くなっているのでしょうか。

 「香1枚…もしかしたら角1枚違うくらい段違いです。人ってここまで短期間で強くなれるものなんだな、と…。彼の上にいる世代、永瀬拓矢王座、菅井竜也八段、斎藤慎太郎八段、高見泰地七段、佐々木勇気七段、三枚堂達也七段、佐々木大地五段(全員20代後半)は子供の頃から見てきていますし、とんでもなく分厚い世代です。まだ発展途上でもある彼らを抜いていくとは思ってもいませんでした」

 ―勝又七段の専門分野でもありますけど、ディープラーニング系ソフトの導入などAIを用いた成果とみる報道も多いです。

 「いや、AI研究だろうと何だろうと関係ないような『人間には無理』という領域に達していると思うことも少なくないです。三冠を達成した叡王戦第5局にしても、あえて相手に二枚銀で攻めさせる▲2九飛とか、終盤の一分将棋の▲9七桂とか、普通は無理ですよ。さすがに努力して得られるものであるという気はしません。人間には限界がある。9×9の盤上はあまりに広大で網羅するのは不可能です。人間には無理です、ということを実現する藤井さんは、理系にも文系にも分類されない『神が与え給うた才能』としか言えないものを持っています。同じことはもちろん羽生さんにも言えて、羽生さんのすごさはいくら語っても語り尽くせませんけど、羽生さんと匹敵する人が出てきたことが何より衝撃です」

 ―今後の期待と予想は。

 「環境次第かもしれません。今のハードスケジュールを全て遠征(愛知県から東京、大阪、タイトル戦開催地へ)でこなしているのはちょっと異常ですから。でも…本音を言えば羽生さんの記録を意識していないはずはないと思います」

 ◆勝又 清和(かつまた・きよかず)1969年3月21日、神奈川・座間市生まれ。52歳。石田和雄九段門下。83年、中学生名人。同年に奨励会入会。95年、26歳で四段昇段。98年、順位戦C級1組に昇級。現代将棋の流行を一般ファンに分かりやすく解説する手腕から「教授」の愛称がある。2013年には東大客員教授に。今期は9勝6敗。著書に「消えた戦法の謎―あの流行形はどこに!?」「最新戦法の話」「新手ポカ妙手選」シリーズなど。

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