たけし襲撃事件で思い出した24年前のベネチアの夜…北野映画とのシンクロと暴力描写の持つ意味

スポーツ報知
11日放送の「新・情報7daysニュースキャスター」で自身の襲撃事件について語ったビートたけし

 天才的クリエイターは未来に自身の身に起こる運命までも予見するのか―。思わず、そんなことを考えさせられた襲撃事件だった。

 今月4日、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」(土曜・午後10時)生出演直後に40代の男につるはしで襲撃されたタレント・ビートたけし(74)が1週間後の同番組で事件の顛末を振り返った。

 番組冒頭、安住紳一郎アナウンサー(48)に事件について聞かれると「しゃべりたいこと満載なんだけど、警視庁の方でとにかく捜査に影響あるので黙っててくれっていう。漫才師なのに何もしゃべれないという結構、つらい立場で暴力を2回受けたみたいですよ」とコメント。

 「ガラスがボンボン、ボンボン飛んできて…。よくある映画のワンシーンみたいな感じだったね。実際にアメリカのアクション映画で見るとの同じような感じ。怖いですよ。分からないんだけど、十何発? 時間が飛んでるんだよね。くたばる瞬間は長く感じるとか言うじゃない?」と詳細に、率直に振り返った。

 事件は4日午後11時40分頃発生。たけしが乗った車が東京・赤坂のTBS敷地内で襲われ、フロントガラスなどが破損した。たけしは後部座席に乗車。車のガラスには銃弾痕のようなヒビが入った。

 自身の耳を指しながら「切れていたんだけど、1週間たって治った。あと、ぎっくり腰になっちゃって。中でのたうち回ったから、逃げるのに。そんなの後でしか気づかないもんね」と話す、たけしの「アクション映画みたいな感じ」と言う言葉。多くの北野映画ファンはあの作品の、あのシーンを思い浮かべただろう。

 1989年公開の「その男、凶暴につき」。深作欣二監督の降板で急きょメガホンを取った監督デビュー作は斬新なカメラワークと暴力描写で処女作にして、映画監督・北野武の才能のきらめきを映画界に知らしめたが、この作品の中盤に今回の事件と酷似したシーンが存在する。

 たけし演じる刑事・我妻は相棒の後輩とともに薬物事件容疑者宅の捜索に向かうが、この男がケタ外れに凶暴だった。先に現場に到着した強面の刑事コンビをボコボコにすると、我妻の同僚も子どもから奪った金属バットで一撃。そのまま裸足で逃げ続ける男を我妻らは車で追跡するが、男が金属バットで向かってくると、我妻はそのまま前進。はね飛ばしてしまう。

 「はねちゃうことないじゃないですか~?」とつぶやく後輩刑事。その瞬間、その頭を押さえて我妻が伏せると、血まみれの男がフロントガラスを金属バットでメッタ打ち。飛び散ったガラスを頭から浴びた我妻はもう一度、アクセルを踏み、男をはね飛ばすという印象的なシーンだった。

 32年後の襲撃事件を予見したようなワンシーンを思い出すと同時に私の記憶は24年前のイタリア・ベネチアの街角に飛んでいた。

 97年9月、映画担当記者だったため北野武監督を追いかけて、イタリア・ベネチアのリド島入り。世界3大映画祭の一つ、第54回ベネチア国際映画祭で「HANA―BI」が日本映画40年ぶりとなる最高賞・レオーネドール(金獅子賞)に輝く快挙を成し遂げた瞬間に幸運にも立ち合うことができた。

 その夜、リド島唯一の中華料理店で開催された祝賀会に北野監督は密着取材をしていた私も招いてくれた。

 常に斬新かつショッキングなバイオレンス描写が強い印象を残す北野作品。「HANA―BI」でも手にした割り箸で唐突に敵対ヤクザの目を刺したり、石を入れたタオルで追ってきたヤクザを殴殺するなどのシーンが頻出。公式上映に先立つ上映会場では暴力シーンのたびに「うっ…」や「ブゥー!」という声を発し、音を立てて席を立つ観客が数多くいた。

 だからこそ、私は正面に座った北野監督に聞いた。

 「監督独特の暴力シーンへの拒否反応が今回、確かにありましたね」―

 受賞直後の興奮からか、何杯目かのワインの酔いからか、顔を赤らめた監督は私の顔をじっと見つめると、「俺は暴力の痛みが伝わるように撮ってるからさ」―。そう、つぶやいた。

 同じくベネチア映画祭に出品されていたある監督の作品を俎上(そじょう)に上げると、「あの監督はさ。多分、実際に人を殴ったことがないと思うんだよね。俺は殴ったことも殴られたこともあって、本当の暴力の痛みを知ってるからさ。だからさ。どうしても本当に痛い描き方になるんだよね」と続けた。

 さらに「見たことないような暴力シーンのストックなら頭の中にいっぱいあるよ。100個以上ある」と続けたとおり、その後の北野作品では「見たことのない」バイオレンスシーンが描かれ続けた。映画ファンならば「アウトレイジ」(10年)での椎名桔平演じる幹部ヤクザの処刑シーン、「アウトレイジ ビヨンド」(12年)での加瀬亮演じる裏切り者の処刑シーンなど、いくらでも実例が浮かぶのではないだろうか。

 暴力シーンだけではなく、「キタノブルー」に代表される斬新な映像表現のストックが、その頭の中にまだまだ数多く貯蔵されている北野監督。さらに期待値を高めるのが、タレント、映画監督としてのその人生が大いなる挫折、常人では経験し得ない一種、異常な事件の後に必ず再度のピークを迎えていることだ。

 この日の番組でも事件直後に避難した赤坂署について、「赤坂署は知ってるんで。違う件で捕まったことがあるんで。覆面パトカーで自宅に送りますと言われたんで『これに乗るのは2回目です。加害者と被害者で乗ったのは俺だけです』って言った。怒られちゃうね、こんなこと言ったら」とギャグにした通り、1986年のフライデー襲撃事件でいったんはタレント生命が断たれたと思われた。

 しかし、その後、数々の人気番組を手がけ、バラエティー界の王様的存在に。タモリ、明石家さんまとともに「ビッグ3」と並び称されるようになったのは皆さん、ご存じの通りだ。

 自作への厳しい評価に悩み、実際は自殺未遂だったのではと言われた94年の原付バイクでの自損事故では頭部に瀕死の重傷を負った。退院時に顔面麻痺が残り、大きくゆがんだ顔で会見を行った際もタレントとして再起不能と言われた。

 しかし、その3年後のベネチアでの最高賞で一気に「世界のキタノ」として世界的映画監督となったのは周知の事実だ。

 74歳になった、たけしに「滑舌が悪い」や「ギャグが滑っている」などの厳しい声が多くあるのも私は知っている。同時に瀕死の大ピンチから何度も奇跡的な復活を遂げてきた昭和、平成、令和の3時代をスーパースターとして駆け抜けてきた唯一無二の存在であることも、また知っている。

 襲撃事件1週間後の生放送で、たけしは言った。

 「何回も死にかけていると、ヤケクソになるね」―。

 一歩間違えば、生死も左右しただろう今回の事件も乗り越え、「ヤケクソ」になったたけしが、映画監督・北野武が撮影中の新作映画で、どんな驚きをもたらしてくれるのか。

 生死の境を揺れ動く激し過ぎる起伏―。人生にまで独自の「振り子の理論」=「俺はお笑いとシリアスをずっと揺れ動き続ける」が当てはまる超大物が一タレントとしても、どんな生き様を見せつけてくれるのか―。私はシルバー世代となったたけしのこれからが楽しみで仕方がない。(記者コラム・中村 健吾)

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