史上初めて甲子園での智弁決勝対決に沸いた第103回全国高校野球選手権大会。スポーツ報知の高校野球取材班では、ルーキー記者が初の甲子園取材に臨んだ。地方大会から追いかけた球児の汗と涙をコラム「見た」で振り返ります。
積極的に打者の内角を突く投球スタイルに、感情と豊かな雄たけびとガッツポーズ―。二松学舎大付(東東京)のエース左腕・秋山正雲(せいうん、3年)には、唯一無二の気持ちの強さがある。窮地でギアを上げ、スピードガン表示は目に見えて上昇する。「一番自信がある」と自負するMAX146キロの直球を武器に、東東京大会では32回1/3を投げ2失点。チームを3年ぶりの夏の甲子園へ導いた。
憧れは、OBの巨人・大江竜聖。同じ左腕で背格好も近いことから、本紙を含め各メディアで「大江2世」と称された。大先輩を引き合いに出した代名詞に「うれしいです」と頬を緩めたり、大江から激励メッセージをもらったことを笑顔で明かしたり。取材時は、プロ野球選手に憧れる等身大の姿がうかがえた。
高校生活最初で最後の聖地でも、秋山は臆することなく自分らしさを発揮していた。初戦(2回戦)の西日本短大付(福岡)戦では、0―0の6回1死満塁のピンチで全球直球勝負を仕掛け、2者連続で空振り三振に打ち取った。3回戦の京都国際戦では6失点で敗戦。3被弾と決勝打はいずれも武器である直球を痛打されたが、強気の真っ向勝負に「後悔はないです」と堂々と言い切った。
その姿は間違いなく「秋山正雲」そのものだった。同じユニホームを着て、同じ左腕から繰り出される内角への直球は、確かに大江を思い起こさせる。しかし、最後まで強気な投球にこだわり抜いた姿勢、一球一球に込められた意図や熱量は、決して憧れの先輩になぞらえられるものではない。私がこの夏追いかけたのは「大江2世」ではなく、「秋山正雲」という一人の高校球児だった。
秋山は「上の舞台でやりたい」とすでにプロ志望を表明している。夢の世界に足を踏み入れ、飛躍することができますように。そして、いつまでも自分らしさを忘れずにいてほしい―。そう願わずにはいられない。(北川栞)