菅義偉首相(72)は3日、自民党臨時役員会で総裁選(17日告示、29日投開票)での再選を断念し、退陣する意向を電撃表明した。新型コロナウイルスに関する政府対応への批判が続出。首相就任からわずか1年での退陣を余儀なくされた。総裁選には、既に出馬の意向を表明している岸田文雄前政調会長(64)や高市早苗前総務相(60)に加え、河野太郎行政改革担当相(58)らも立候補を検討。「菅降ろし」が焦点だった総裁選はその対象を失い、混沌(こんとん)としてきた。
「気力を失いました」
3日午前11時20分頃、自民党本部。臨時役員会を控えた菅首相は、向かい合った二階俊博幹事長(82)に辞意を伝えた。「ウソだ」。思わず二階氏が声を上げても、首相は「決めたんだ」と慰留を拒否。林幹雄幹事長代理(74)が「裏で首相を揺さぶる人がいるのですか」と尋ねたが、無言を貫いた。先立って、麻生太郎副総理兼財務相(80)と官邸で面会した際は「正直、しんどい」と弱音を漏らしていた。
午後1時過ぎ、首相は官邸で記者団を前に「役員会で自民党総裁選挙には出馬しないと申し上げました。コロナ対策と選挙には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要。両立はできない。来週にも記者会見を開きます」と語った。記者からは「丁寧な説明を!」「責任を放棄するつもりですか」との声も飛んだが、振り返らず立ち去った。
総裁選告示の2週間前に起きた電撃退陣劇。前日午後に出馬意向を聞いたばかりだった二階氏は「考えに考えた末の決断だと思う。総裁の考えを皆で受け入れ、今後の党運営に対処したい」と述べ、後継指名の有無を問われると「ない」と即座に否定した。
首相の不出馬により総裁選レースの構図は激変した。対抗馬の軸になるはずだった岸田氏にとっては大誤算。党役員任期制限など改革を打ち出し、菅氏や二階氏への不満の受け皿を狙って若手らに支持が広がっていただけに、ダメ出しの対象を失った形だ。
一方、新たに出馬へと動き出したのは麻生派の河野氏。知名度が高く、衆院選を乗り切れる「顔」として中堅・若手からの待望論が根強い。昨年の総裁選では出馬の意向を示しながら、派閥の領袖(りょうしゅう)である麻生氏から翻意を促されて断念した経緯がある同氏は、麻生氏に「出たい」と伝えると「決めるのはお前だ」と返されたという。容認とも放任とも解釈できる微妙なニュアンスだ。
過去4度出馬した石破茂元幹事長(64)は見送りに傾いていたが、TBS番組で「状況は全く変わった。この土日によく考える」と語った。一度は前向きな姿勢を見せながら菅氏の説得で断念した下村博文政調会長(67)は再検討に色気。出馬を明言している高市氏は改めて意欲を語り、野田聖子幹事長代行(61)も周辺に意向を伝えた。茂木敏充外相(65)は「党内の期待に応えたい気持ちは変わっていない」とした上で、情勢を見極める考えを示した。
昨年の総裁選で麻生氏とともに無派閥の菅氏を担ぎ、首相の座に導いた安倍晋三前首相(66)はこの日、「本当に立派に務めてくれた。後を継いでくれた首相に感謝している」と述べたが、総裁選の対応については言及しなかった。安倍氏の所属する細田派は96人、麻生派は53人で、合わせれば国会議員票の4割近い。両氏の支持が総裁選のカギを握っているといえそうだ。