藤波辰爾「50年の名勝負数え唄~WRESTLING JOURNEY~」<8>ニューヨークのベルト奪取【中編】

藤波辰爾
藤波辰爾

 プロレス界のレジェンド藤波辰爾(67)が今年、デビュー50周年を迎えた。16歳で日本プロレスに入門し、1971年5月9日に岐阜市民センターでの北沢幹之でデビュー。一度も引退せずトップレスラーとして今もリングに立つ藤波は「THE NEVER GIVE UP TOUR」と銘打つ50周年ツアーの第一弾を10月31日に大阪・南港ATCホール、11月9日に後楽園ホールで行う。スポーツ報知では半世紀に渡る数々の名勝負を藤波に取材。「藤波辰爾、50年の名勝負数え唄~WRESTLING JOURNEY~」と題し、毎週金曜日に連載する。また、今回の連載は藤波デビュー50周年プロジェクト「IMAGINATION PROJECT」と連動し「ドラディション」公式You Tubeチャンネル「DRADITION TV」で藤波が名勝負を振り返るインタビュー動画を配信する。8回目は「ニューヨークのベルト奪取」【中編】。

 1978年1月23日。24歳の藤波辰爾は、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)のリングへ向かった。

 「花道へ入って行く時にドア明けたら風が吹いてきた。熱風というか、すごい風で体が押し戻されるような感じがした」

 失敗は許されないWWWF世界ジュニアヘビー級選手権。風はそのまま全身にのしかかる重圧のようだった。リング上で対戦相手のプエルトリコ出身のカルロス・ホセ・エストラーダと対峙した時、経験のない違和感を覚えた。

 「リングがデカかったんです。新日本よりも全然、デカくてね。ロープも柔らかかった。僕は、普通、リングへ上がる時は、どこでも試合前にリングへ上がって大きさとかロープの高さとかをチェックするんだけど、あの時は、そんな余裕もなくて、できなかった。試合でリングに上がって、初めてそれを感じて、ちょっとビックリした」

 経験のない広いリングに戸惑いはあったが、ゴングが鳴れば、自然に体が動いた。

 「もってるものをすべて出そうと体が動いた。とにかくスピードだけを意識した。お客さんは、最初、初めて見る自分に対してブーイングもあったんだけど、自分が繰り出す飛び蹴り、巻き投げが素早かったのか、技を出すたびに、ブーイングやヤジもなくなっていったのを覚えている」

 闘いの中で頭にあったのは試合直前に新間寿から言われた「何かやれよ」だった。

 「新間さんから言われて僕も『何かやりたい』っていうのがあったけど、試合前には思いつかなかった。試合をやっているうちに『そういえばスープレックスがあったな』と思い出した」

 思い出したスープレックスは、ゴッチの自宅で教えられた相手をフルネルソンに固めて投げる技だった。

 「試合の途中に思い出して、あの投げを強引に持っていけるんじゃないかと思った。ただ、練習では人形を投げただけで、実際の人間を相手に試したことはなかった。だからぶっつけ本番。だけど、やってみようってひらめいた」

 その時が来た。エストラーダのボディプレスを自爆させると、背後に回った。フルネルソンで羽交い締めにすると一気に投げた。ブリッジで固め3カウントを奪った。ぶっつけ本番で繰り出したドラゴンスープレックスでベルトを獲得した。体重83キロ。細い体を弾ませリングで喜びをさく裂させた。

 「もう、うれしくて。頭の中は真っ白だった。ただ、ドラゴンスープレックスは自分も今までやったことなかったから、後で新聞を見て『あぁ、こんな形だったんだ』って分かったぐらいだった。今、思うと何で無難なジャーマンをやらなかったのか、とも思う。でも、気が付いたら羽交い締めにしていた。考える余地はなくて、そのまま投げていた。これぞ運命だね。それだけ必死だった。ただ、後から写真を見ると、エストラーダは、頭からマットに突き刺さっていた。よくケガしなかったなって思うけど、あの時は相手のことは考えなかった」

 満員のMSGは、世界で初めて公開されたドラゴンスープレックスに静まり返った。

 「MSGが水を打ったように静まり返ってね。反応がないから不安だった。でも、しばらくすると、スタンディングオベーションで大きな拍手がわき起こった。振りかえると、試合前に新間さんの『何かやれよ』のひと言がなかったら漠然と試合をこなしたかもしれない。あの言葉があったから、自分で何ができるかを考えたし、あれがなかったらドラゴンスープレックスに結びつかなかった」

 リングを下りると控室で新間が興奮していた。

 「新間さんが飛んで来て『お前、あれスゴいな!。よくやってくれた』ってすごい喜んでくれた」

 衝撃のドラゴンスープレックスで藤波は、一夜にしてヒーローになった。しかし、厳しい視線も待っていた。(続く。敬称略)

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