「貝に続く場所にて」で芥川賞受賞の石沢麻依さん「とどまるところを知らないネガティブシンキング」

スポーツ報知
ドイツ・イエナ市在住で美術史を研究する石沢麻依さん(講談社提供)

 第165回芥川賞は石沢麻依さん(41)の「貝に続く場所にて」(講談社、1540円)と李琴峰(り・ことみ)さん(31)の「彼岸花が咲く島」(文芸春秋、1925円)が受賞した。ドイツ在住の美術史研究者である石沢さんは初候補で初受賞。類いまれな将来性を漂わせる石沢さんに聞いた。(北野新太)

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 図書室が好きだった小学校低学年の頃、石沢さんの本の借り方は普通ではなかった。「例えば『若草物語』を別の翻訳者で2冊借りるんです。印象の違いを探っていると『あれ? ここはこっちの方がいいぞ』みたいなことがあって。言葉へのこだわりは子供の頃からあったように思います」

 物語の世界に導いてくれたのは読書家の母だった。「母が若い頃に読んだ本を手に取って読書領域が広がりました。暴走する人で、大学院の時なんて深夜2時に私の部屋に突入してきたんです。こんな夜に何事か、と思ったら『カラマーゾフの兄弟』の犯人が知りたくて眠れないと…。登場人物を一人ずつ挙げていくので、犯人の瞬間に表情を変えないように気をつけました」

 文学的感性を育まれて幾年月。20代の頃に小説を書いていた石沢さんの転機となったのは、美術史研究者としてドイツ・イエナ市在住となって2年が経過した2019年夏の一日だった。「提出したドイツ語の論文を読んだ教授から『辞書にしか眠っていないような言葉をちりばめて書きなさい、スタイルを身につけなさい』と言われ、やさぐれたんです。部屋の隅でうずくまって、どーせスタイルのない人間ですよ~ってフテくされてたら、ふと、あ、今の自分ならどんな小説を書けるんだろう…と自問自答するようになったんです」

 2年後、デビュー作で芥川賞を受賞。ドイツで美術史を研究する東北出身の「私」のもとを、東日本大震災で行方不明になったはずの知人が来訪する物語。美しい言葉の数々により、幻想的な情景が浮かび上がる美術作品のような小説とも言える。「記憶や時間、いろんなモチーフを多重的に絡め合わせています。読者の方の心に潜り込んでくれたらと思います。いつか日本を舞台にした作品も書きたいです」

 文学を愛し、美術を追求するためにドイツに渡った。ポジティブな印象を受けるが、実は「とどまるところを知らないネガティブシンキングなんです」と明かす。「ジェットコースターに乗った後は必ず懺悔(ざんげ)します。こんな恐怖に陥ったのは、人生で何か間違ったことをしたせいだと…。人から怖い話を聞くと恐怖が増幅する話を勝手に考えて、恐怖のあまり倒れて病院に担ぎ込まれたことも。遠足の前は事故に巻き込まれるシミュレーションをしたり。眠る時、他の人形に恨まれないように全部の人形と一緒に寝たこともあります」

 そんな文学者らしい石沢さんが書棚の整理をしながら芥川賞の吉報を待ったのは、7月14日のことだった。「小さい頃から、落ち着かないと本棚を片付けるんです。古典、近現代、翻訳…って配置を考えて」

 鳴り響いた着信音。東京からの国際電話だった。「受賞の連絡をいただいて、早く編集者の方に知らせなきゃ、と急いだら、積み上げた本が崩れて頭の上に落ちてきたんです。(敬愛する)寺田寅彦の本でした。(調子に乗るなよと)叱られたと思ったので、ハイ、すいませんと」

 ◆石沢麻依(いしざわ・まい) 1980年3月22日、仙台市生まれ。41歳。東北大文学部で心理学を学び、同大大学院で西洋美術史を専攻。2017年からドイツの大学の大学院博士課程でルネサンス美術の研究に取り組む。21年4月、本作で群像新人文学賞を受賞してデビュー。「生まれたのはゲーテが死んだ日ですってドイツ人に話すと笑ってくれます。バッハさん(IOC会長)の現地での評判? 否定的ですね…」

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