第165回直木賞受賞の澤田瞳子さん、始発点は「知りたい」という欲求…論文には書けないことを小説で

スポーツ報知
直木賞を受賞した澤田瞳子さん(カメラ・瀬戸 花音)

 第165回直木賞を受賞したのは、澤田瞳子(とうこ)さん(43)の「星落ちて、なお」(文芸春秋、1925円)と佐藤究(きわむ)さん(43)の「テスカトリポカ」(KADOKAWA、2310円)。「星落ちて、なお」は、鬼才の絵師である父・河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)の影に翻弄(ほんろう)される娘の一代記。澤田さんは5度目のノミネートで受賞を果たした。(瀬戸花音)

 澤田さんは、天才の家族に興味を持った。「そんな本を読みたいな」。担当編集者に話をすると、「それ、やりましょう!」と返ってきた。「いや、編集さん、何言ってるんですか。誰か書いてくれないかなあと…」

 そんな会話から始まった今作は、幕末から明治中期に活躍した鬼才の絵師・河鍋暁斎の娘・とよを描いた物語。父の死。消えてはくれない父の影。妹であり、妻であり、母である自分。流れる時代。一人の女性がそこに間違いなく生きていたと知ることができる作品だ。「分からないことを知りたいんです」。取材中、澤田さんはそう繰り返した。

 もともと研究者志望。最近になり、小学生の頃に埋めたタイムカプセルを掘り起こすと、「考古学者になりたい」と書いてあった。「私、ケーキ屋さんとか、もっとかわいいことを言ってたつもりだったんですけど…軽くショックを受けました」

 だが、20代後半になり、「研究者に向いてない」と思ったという。「研究者って九分九厘まで事実を積み上げていくのに、私は5割か6割で、まあいいやと長いはしごで上がろうとするんです」。そう気づいた頃から、論文には書けないことを小説で描くようになった。それでも、「調べることが一番好き」だ。

 イタリア語にフラメンコ、スマホゲーム…各方面に興味は尽きず、多くのことを“つまみ食い”してきた。「ゲームでもレベルが進むと協力プレーになるじゃないですか。習い事もそうで、ある程度進むと、じゃあ舞台に出ましょうとか言われ、舞台に出るといろんな人がいる。それが嫌で、すっとやめちゃうんです」

 人に対する興味が湧いてきたのは最近。「日々暮らしているのがようやく楽しくなってきました」。作家になって11年で驚くほど対人スキルが上がったという。「一番面白いし、一番怖いのは人間だなって思えるようになったんです」

 現在も同志社大で事務員として働いているが、コンビニや結婚式場でも、できることなら働きたい。「人間って自分の人生しか生きられない。でも、私は欲張りで、いまだに違うことをやってみたいんです」

 現在興味があるのは、富士山に将棋にプロレス…。「60代になっても70代になっても知らないことや、違う小説を書いていけるような作家でいたいなあと思っています」。直木賞を受賞した今も変わらず、全ての始発点は「知りたい」という欲求だ。

 <澤田瞳子>(さわだ・とうこ)1977年、京都府生まれ。43歳。同志社大大学院博士前期課程修了。2010年、「孤鷹の天」でデビューし、同作で中山義秀文学賞を受賞。13年、「満つる月の如し 仏師・定朝」で新田次郎文学賞を受賞。16年、「若冲」で親鸞賞を受賞。同作で初めての直木賞候補に。20年、「駆け入りの寺」で舟橋聖一文学賞受賞。

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