第165回直木賞受賞の佐藤究さん、書くことで気づかされた「物語とは、敗れた者たちのためにあるんだ」

スポーツ報知
最近はまっているボディービルのポーズをとる直木賞を受賞した佐藤究さん(カメラ・瀬戸花音)

 第165回直木賞を受賞したのは、佐藤究(きわむ)さん(43)の「テスカトリポカ」(KADOKAWA、2310円)と、澤田瞳子(とうこ)さん(43)の「星落ちて、なお」(文芸春秋、1925円)。「テスカトリポカ」は、暴力的な描写が多いことから、選考委員が1時間以上の議論を交わしたクライムノベルだ。(瀬戸花音)

 「メキシコの麻薬密売人とかがドアをノックするような―」。佐藤さんは執筆中、そんな夢にうなされて幾度も目を覚ました。「これを書くことによって、俺は殺(や)られるのではないか」。自ら描いた世界と現実に存在する売人たちが結びつき、区別がつかなくなる感覚。漠然とした恐怖に襲われた。

 受賞作はメキシコと日本を舞台に繰り広げられるクライムノベル。川崎で生まれ育った少年・土方コシモとメキシコの麻薬密売人バルミロ・カサソラの運命は、暴力と臓器売買と古代アステカ王国の神により交わる。

 さながら悪夢のような物語を巡って、選考委員の議論は白熱。佐藤さん自身、この作品での受賞は予期せぬことだった。「アワードを番組として考えると、直木賞は朝の連続ドラマ。そこでメキシコの国境でショットガンぶっ放すのはどうなのかと。文学ではあります。でも、放送時間帯というのは歴然としたものなので」

 それでも結果、「朝ドラ」でショットガンはぶっ放された。「あり」か「なし」か。議論の参加者は増えていき、書店では完売が相次いだ。「時代のせいもあると思うんですよね。今、よくできたハッピーなストーリーが通用しづらい現実がある。そうではない現実をたくさんの皆さんが実感していらっしゃるので。その中で、はまったというのもあるかもしれないですね」

 子供の頃の夢はプロレスラー。プロレスに一番近い格好という理由で水泳部に入っていた中2の時、地元・福岡でスコット・ノートンを見た。190センチ、160キロの“超竜”を前に「あ、この商売、俺はナシだ」と本能的に感じた。高校では空手家アンディ・フグさんに憧れ道場に通うようになったが、骨折を繰り返し、夢破れた。

 それでも「夢は何か」という質問は、この時期の青年にはいや応なしに降りかかってくるもの。「何かを言わなければいけない」。そう思った時、文章を書くことが好きだったと気づいた。「大きい夢が砕け散った時、それをあたかもなかったことにするように、ふと小説家になると言い出したんです」

 一番の夢の陰に隠れてはいたが、好きだった「書く」という行為。理由は自分でも説明できないが「これだったらチャンピオンになれるんじゃないかと分かった」という。「誰でも何かのチャンピオンになりたいですよね。勝ちたい。ところが、書き続けるうちに気づかされるんですよ。『物語とは、敗れた者たちのためにあるんだ』って」

 直木賞受賞という喧騒(けんそう)の中にいる佐藤さんに今の夢を尋ねた。「作家の仕事は常に夢にうなされてる状態なので、夢にうなされない日々が夢かな。朝起きて顔洗って『ゴジラ対コング』を見て、おもしれえなって一日終わりたいけど。なかなかそれができないですよね」

 <佐藤究>(さとう・きわむ)1977年、福岡県生まれ。43歳。2004年、佐藤憲胤(のりかず)名義の「サージウスの死神」で群像新人文学賞優秀作となりデビュー。16年、「QJKJQ」で江戸川乱歩賞を受賞し、佐藤究に名義を変更。18年、「Ank:a mirroring ape」で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞を受賞。21年、「テスカトリポカ」で山本周五郎賞、直木賞をダブル受賞した。

社会

NEWS読売・報知 モバイルGIANTS 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請