コロナ禍で物販収入額を伸ばした横浜FM 商品事業部の戦略と思いは…「誇ってもらえる商品を」

スポーツ報知
横浜FMの公式グッズ(クラブ提供)

 Jリーグは7月29日、未発表だった3月決算の柏、湘南、磐田も合わせた全56クラブの2020年度経営情報を開示した。新型コロナの影響を受け、リーグ全体で入場料収入が約6割減となったことが大きく響き、単年度赤字は35クラブ、債務超過は10クラブに及んだ。その中で、営業収入が58億6400万円(前年比-2000万)でトップの横浜FMの当期純利益は前年比プラス400万円だった。J1クラブで単年度黒字となったのは、横浜FM、神戸、清水、横浜FC、柏、湘南の6クラブだった。

 横浜FMはマイナス数値を最小限にとどめたクラブの一つだ。スポンサー収入、Jリーグ配分金など、要因は複数あるが、大きな収入源となったのが物販収入だった。2019年に成し遂げた15年ぶりのリーグ優勝の効果もあり、売り上げはクラブ史上最高額で初の大台となる10億3900万円を達成。前年比としては3億3700万円もの数値を伸ばした。

 しかしその数字を打ち立てた裏には、優勝による特需結果だけではなく、「コロナ禍でどう商品を売り出していくか」というスタッフの考察と大胆な戦略があった。戦略の中心で動くのは、9人が所属する商品事業部。このほど、マーケティング本部商品事業部部長の成定竜志さん、同次長日比野恵子さん、昨年まで同部員だった勝見優華さんが取材に応じ、不測の事態に見舞われた昨シーズンを振り返り、クラブを支える一員としての思いを語った。

 2019年12月7日、横浜F・マリノスは怒とうの7連勝という快進撃でリーグ優勝の栄冠に輝いた。歓喜に湧いた横浜。商品事業部もまた、「優勝記念グッズを多くの人に届けられる」と熱を帯びていた。しかし、年が明けると状況は一転。新型コロナの影響で昨年2月末からスポーツイベントの自粛が要請され、4月には緊急事態宣言発令。すべての試合予定は消え去り、スタジアムショップも休業を余儀なくされた。「なぜこのタイミングなんだろう」。売上過去最高額の達成はおろか、大幅な減収を覚悟せざるを得なかった。

 たまたま試合に足を運び、たまたま気になったグッズを手にしてくれる購入者は少なくないが、無観客試合ではそうした層への販売機会を失ってしまう上、応援グッズやガチャガチャ(カプセルトイ)などの試合会場で中核となす商品群の販売は、ほぼ期待できない。商品事業部では、商品の軸とターゲット顧客を見直し、「コア層を中心とした販売形態に変える必要がある」と決断。 バラエティに富んだグッズを展開することでリピート購入を促す「商品拡充」と、コロナ禍で誰もが口にした「おうち時間の充実」をテーマに掲げた。

 クラブが提供する商品には、売上(利益)増加のみならずファンとのつながりを強化する役割があるという。「試合がなくてもグッズを通じてF・マリノスを分かち合いたい」という願いも込め、毎週絶やすことなく新商品を出し続けてきた。

 タオルマフラーなど応援グッズの売れ筋は想定通りのマイナス。そのぶん、日常使いできる生活雑貨やアパレル商品を積極的に投入することにチャレンジした。ホットプレートや食器などを販売する、株式会社イデアインターナショナルが手がける「BRUNO」とのグッズは、Jリーグの中でも先駆けて行った取り組みで、印象的な商品の一つだと話す。

 ホームゲームで人気だった「ガチャフェス」も「オンラインでどうにかできないか」と話し合い、「(ガチャガチャ)回すことができなくても、毎年コレクションしてくれる方々へ届けたい」と実現化。予想を超える反響を呼んだ。

 寄せられる声の吸収も大切にしている。SNS等でサポーターの反応をチェックすることに加え、18年から行っている「横浜F・マリノス沸騰プロジェクト」で、応募・選考によりサポーターが参加する沸騰ミーティングも貴重な情報収集の場。クラブのシンボルであるトリパラのワンポイント刺繍が入ったTシャツやパーカーなどのアパレル商品は、実際にサポーターの声を元に作られた。「シンプルコンセプト」と企画された商品は「さりげなく、わかる人にはわかるF・マリノスグッズ」に仕立てることで、いわゆるライト層も含めたより多くの人にとって手に取りやすい商品となった。

 リーグ制覇で胸の星が一つ増えたユニホームの販売枚数も、3年前と比べ、倍の2万2530枚と過去最高。近年、より濃色のデザインにすることで第1ユニホームと差別化を図っているスペシャルユニホームが占める割合も大きかった。7月10日のJ1リーグ福岡戦で選手が着用した今年度のスペシャルユニホームも売れ行きは好調で、スペシャルユニホームの販売枚数として、過去最高枚数を更新している。一つ一つのグッズに対する工夫が功を奏し、厳しい状況を打破することに成功した。

 「ファン・サポーターのみなさんから、『試合は無くてもF・マリノスとつながっていたい。F・マリノスに対して、今僕らにできることはないのか』といった声を上げていただき、すごく心強かった」。こうしたファン・サポーターに囲まれていることや、選手たちの商品に対する反応も、力強い後押しになったと感謝する。

 アフターコロナを視野に入れつつも、オンラインが主戦場となる状況での模索は続く。Jリーグ開幕当初からクラブでグッズの企画に携わる日比野さんは言う。「ファン・サポーターが喜ぶものをつくることはもちろんですが、新しいことに挑戦していきたい。『Jリーグのチームでこんなものつくってなかったよね』と言われるような。サッカーが強くて『F・マリノスすごいでしょ』って誇ってもらえると同時に、『グッズもすごいんだよ』って誇ってもらえる、安心安全な商品を今後も届けていきたい」。ものづくり、クラブへの情熱が難局を乗り切る大きな力となっていた。

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