検証・東京2020(6)「1年延期」ニッポン柔道金メダルラッシュの裏にあった不安材料とは

スポーツ報知
柔道男子73キロ級で金メダルを獲得した大野将平

コロナ禍で1年延期した東京五輪が閉幕。スポーツ報知では、記者コラムでテーマ別に検証する。第6回は「1年の開催延期」。

 日本勢は今大会で金27個を含む58個のメダルを獲得した。史上最多のメダルラッシュの呼び水となったのは、間違いなく柔道だろう。7月24日に高藤直寿が金1号で日本選手団を勢いづけ、阿部一二三&詩は兄妹同日V。大野将平の2連覇など、男女11階級と団体で金9、銀2、銅1のメダルを手にした。担当記者としては正直、ここまでの成果は予想していなかった。全階級で金を狙えると期待はしていたが、前代未聞の1年延期がどう影響するかが読めず、実際、関係者からも慎重な声は聞こえていた。

 全日本柔道連盟はコロナ禍に細心の注意を払って対処してきた。自粛からの練習再開は段階的。代表選手でも乱取りができない期間が長く、出稽古も制限された。昨年10月に再開された国際大会への派遣も、年明けまで見送った。慎重な判断には昨年4月に事務局内で発生したクラスターが影響したとの指摘もあるが、強化と安全面のバランスで難しい判断だったはずだ。

 そうした中で、国際大会に積極的に派遣していた海外勢の仕上がり具合への危機感はあった。国・地域によっても事情は異なるが、海外のコーチと情報交換したある指導者は「ワクチン接種後は行動制限がなく動き出しているという話も聞いた」と語っていた。

 一方で、例えば男子で史上4人目の連覇を達成した大野は五輪が約1年5か月ぶりの実戦だった。大会前「どんな段階を踏もうが結果が全ての世界で戦っている」と意に介していなかったが、直前の調整を視察したスタッフは「海外選手と乱取りをこなせていないという部分では疑心暗鬼というか、不安もあるのかなという印象があった」と振り返る。優勝直後の「苦しくてつらい日々を凝縮した一日」という言葉からは、調整期間が本来の4年から5年になったことも含め、誰もが経験のない状況での挑戦の過酷さを感じさせた。

 逆境で成功を収めた要因は、地の利を生かして環境の整ったナショナルトレーニングセンターを拠点としたことなどさまざまだが、井上康生監督が繰り返していた言葉に象徴されるように感じる。「今できること、やれることを積み重ねていくことしかできない。それを一つ一つ考えながら進んでいくことが大事だ」

 大会後、強化関係者は24年パリ五輪に向け「今回の結果に浮かれている者は一人もいない」と断言した。コロナ禍で代表や補欠以外の海外派遣が長らく滞っていることによる底上げの不安。通常の4年ではなく、3年で迎える準備期間の難しさもある。ただ、常に危機意識を持ち、どんな状況でも最善を尽くす。今大会の経験は3年後に必ずつながるはずだ。

(林 直史)

 ◆林 直史(はやし・なおふみ)2007年入社。東京五輪では柔道、卓球などを担当。連日の金メダルラッシュはどれも忘れがたいが、最も印象的だったのは卓球の混合ダブルス。劣勢からの逆転で打倒・中国を実現した水谷隼、伊藤美誠ペアに勇気をもらった。

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